蓮の口から出るタバコの煙が空へ上がっていくのを眺めながら……思った。
好きだよ。蓮のことは好き。
それは今、迷うことなく言える。
でも、そういう愛の言葉を言うようなタイプじゃないから。
今まで言ったことがないし。
だから、こういう時ってどうすればいいのか分かんない。
「あたし以外の女の子とは……もう遊んだり、会ったりしないの?」
「するわけねぇだろ。なんだよ、逆に遊んでほしい?」
「っ、そんなこと言ってないじゃん!」
「冗談だよ。つーか、アドレスも澪以外の女全部消したし。連絡来ても『もう会えねぇ』しか言ってねぇ」
「そっ…か」
蓮のその言葉に、実はあった不安が溶けたのは言うまでもない。
「関係持った女ともキッパリ切ったし、ラブホ行こうって誘いあってもちゃんと断ってるし」
この言葉を聞いた瞬間はイライラしたけど、なんとか理性で頑張って抑えたのも――…言うまでもない。
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「あたしの……どこが好きなの?」
「意地張るとこ」
「……」
「そのくせに、意地張ってんのがバレバレなとこ」
「……」
「あとは基本男っぽいくせに、たまに女っぽくなるとこ」
「……」
「それと………最初に会ったとき、俺に惚れなかったとこ」
え?そこ?
とは思ったけど、話を中断させたくなかったから何も言わないでおいた。
「正直最初に嫌いって言われた時は、今までそんなこと言われたことねぇから、ムカついて逆に落としてやるって思ってただけだったけど、」
「そうなの?!じゃあ、あたしにムカついたから付き合おうって言ったの?!」
「……まぁ、正直言えばな」
ただあたしのどこを好きなのかを知りたかっただけなのに、
話を聞いてたら余計な部分まで聞くはめになった。
あたしが素直に『最低』と冷めた声で言うと、
蓮は『あぁ。知ってる』と、反省してるような感じで答えた。
でも、そのあとに蓮は続けた。
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「でも今は違ぇから。マジで澪のこと――…」
そこまで言うと、蓮はいきなりあたしの顔をジッと見てきて……。
予想だと、きっとそのあとに続く言葉を言おうとしてたんだと思う。
もうこうなったら自惚(うぬぼ)れるけど、
………“好き”って、言おうとしてたんだと思う。
だけど、もう蓮の気持ちは十分分かったし伝わった。
チャラ男は卒業したみたいだし、もう女遊びもしないって言ってたから、
あたしは信じようと思う。
もう罠にハマっちゃったし。
今さらどうすることもできないし。
だから、今度は―――……
「好きだよ、あたしも」
あたしの気持ちを………伝えたい。
「……」
「……」
そう思って、言ったけど……。
顔上げられない!
絶対あたしの顔赤いと思うんだけど!
てか顔から火が噴き出しそうなんだけど!
あたし今超恥ずかしいんだけど!
人生で初めて言ったであろう『好き』は、予想以上にあたしに恥ずかしさを与えた。
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それからというものの、蓮は買ってきてくれたコーラをあたしの頬に当てて、
「可愛いことすんじゃねぇよ、バカ」
って言ってきて、そのくせして蓮だって――…あたしの顔を見ようとはしなかった。
しかも、あたしの見間違いかもしれないけど………ほんのり耳が赤くなってるように見えた。
気がついたら、いつの間にかどうでもいいようなことを2人で話してて、
付き合ったばっかりの初々しさの“欠片(かけら)”は、これっぽっちもなかった。
「えぇ?!2人いつの間に付き合ったの?!」
みんなが帰ってきたとき、今言うしかないと思い、付き合ったことを報告した。
晶乃には予想以上に驚かれた。
朔たちは、まるで付き合うのが分かってたかのように平静とした顔で聞いてた。
まぁ晶乃が驚くのは分かる。
好きかも、とは言ったけど、好きだって完全に言ったわけじゃないから。
ただ、1人だけ予想外な反応をするやつがいた。
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「は?どういうこと?」
その1人とは………大雅だ。
「どういうことって、蓮が澪にアタックしてたのは知ってんだろ?」
そんな大雅に、拓斗が問いただす。
「それは知ってんけど、アレ冗談じゃねぇの?」
大雅の言葉を聞いて、胸の奥がズキンと痛んだ。
「最初は、な。今は本気だから」
すかさず大雅の疑う声に、迷うことなく……蓮はそう答えた。
心の声が聞こえてるはずがないのに、あたしの欲しかった言葉を………蓮はくれた。
どうしよ……。
反則だよ……。
傷みはなくなり暖かくなった。
これは何なんだろ。
こんな気持ちになったことがないから分かんない。
けどいつかきっと――…分かる日が来るのかもしれない、と思うと、この状況が楽しい自分がいた。
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けど、実際楽しんでる余裕なんかなかった。
蓮と大雅の間には、なぜかピリピリした空気が流れていて、それはこっちにも伝わってくるほどだった。
え?なに?
これこそどういうことって感じなんですけど?
何で2人ともこんなにピリピリしてんの?
すると、大雅が口を開いた。
「お前の本気って何だよ。数えきれねぇくらいの女と遊んできたんだから、どうせ1人の女になんか絞れねぇだろ?」
いつもの大雅とは別人。
「急にどうしたの?」
ケンカで怖い口振りになるのはよくあるけど、何で今こんな怖くなってんの?
そんな大雅の変貌ぶりに驚きを隠せないあたしに対して……
「うるせぇよ。お前は黙っとけ」
突き放したような態度の大雅。
カッチーン。
もちろんあたしは、ムカつく態度とられて『あ、ごめーん。あたし黙ってるね』なんて言えるような心が広い人間じゃないから、
完全に怒りの線がブチッと切れた。
だから悪態ばっかついてる大雅に、1発パンチでも喰らわせてやろうと思って拳に力を入れた瞬間――…
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「だから、何が言いてぇんだよ」
あたしの右拳が上げられる前に、蓮が低い声を出した。
「澪だけに絞れねぇだろ、って言ってんだよ。澪のことはからかってるだけだろ?」
「……」
「あのなぁ、いくら澪だからって一応女なんだよ。からかいがいあんのかもしれねぇけど、泣かしたら許さねぇし、」
「……」
「他の女と同じに考えてんなら、いくら蓮だからって許さねぇ。弄(もてあそ)びてぇだけなら他の女にしろよ」
「……」
「女たらしだったお前が、澪だけに絞れるとは思えねぇ」
「……」
大雅に対して、蓮は何も言い返さない。
大雅いったいどうしちゃったの?
何であたしごときに、そんなイライラしてんの?
話を聞いてたら、何となくあたしのことを心配してくれてるんだなっていうのは分かる。
それは純粋に嬉しい。
でも……。
今まであたしのことで、こんな大雅を見たことがない。
それに、今の大雅は本当におかしい。
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「言いてぇのはそれだけ?」
さっきまで話を黙って聞いてた蓮は、やっと口を開いた。
でもその口調が挑発的だったから、内心あたしはケンカが起きないかヒヤヒヤしていた。
「あぁ。だから澪とお前が付き合うことに賛成はできねぇ」
「なら賛成してほしいとも思わねぇから、この話は終わりだな」
「あ?んだと?」
蓮の更なる挑発的な発言に、見るからに2人は険悪なムードに包まれていく。
「弄ぼうなんて最初から思ってねぇから、澪以外の女のアドレスは全部消した。もう連絡とる気はねぇ」
「…んだよ急に。そんなの信じられねぇ」
「信じられねぇなら見てみろよ」
そう言って、蓮は荷物の中を漁ると携帯を取り出し――…大雅へと投げた。
その携帯を受け取った大雅は、何やら蓮の携帯をカチカチといじり始めた。
「本気、なのかよ」
さっきまでの威圧的な声とは反対に、普段と変わらない声。
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「あぁ。他の女にはさらさら興味ねぇし。だから心配しなくても……澪は泣かせねぇよ」
蓮のその言葉に、あたしは心臓が信じられないくらいバクバク言ってたけど、それは頑張って抑えた。
「そうか……ならいいんだ。つーか、わりぃな!いきなり説教みたいになっちまって」
大雅は簡単にいつものように戻った。
いったいさっきまでの変貌ぶりは何だったんだろうと思うほど、それからはいつもの大雅で、みんなも敢えて変貌ぶりには触れなかった。
あたしと蓮が付き合ってから数日後の………7月最後のある日。
「無理無理!絶対無理!人生で1回も履いたことないから!」
「1回もないの?じゃあ今日履いた記念日でいいじゃん」
「そんな記念日いらないし!しかも、絶対そんな可愛いの似合わないから!」
「何がよ、普通に似合うからね?てか逆に今日履かなくていつ履くのって話だし」
あたしは目の前にある“スカート”という敵と戦っている。
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