ぞっこん☆BABY〜チャラ男のアイツ〜





それから少し休むとあたしの体調も良くなり、3人で救護室を後にした。



荷物置き場に戻ったあたしたちだけど、あたしは1人で大丈夫だったから、


晶乃と蓮にはウォータースライダーに戻ってと伝えた。



まだそんなに時間は経ってなかったし、順番が来るのは当分先そうだったし、


せっかくだから2人には乗ってほしかった。



晶乃は嫌がってたけど、あたしが無理矢理背中を押したのと、


蓮の『俺が残る』の一言で、結局行ってくれた。




………そして。



今は蓮とまた2人きりという状態に至る。




「ねぇ、蓮も行ってきていいよ?あたし1人で大丈夫だから」




あたし的には、蓮にもウォータースライダーに乗ってきてほしい。



……なのに。




「病人1人置いていけるわけねぇだろ。また倒れられたら困る」




蓮は断として、ここを動く気はないらしい。




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でも、本当は蓮がそばにいてくれて嬉しくないわけじゃない。



むしろ……嬉しい。



倒れた時は意識がなかったから何も思わなかったけど、今思えば、怖くてたまらない。



みんなの記憶がある時に自分だけの記憶がないなんて、そんな恐怖あるだろうか。



話を聞いて初めて自分の身に起きた事の重大さに気がついた。



だから………正直こうして蓮がそばにいてくれるだけで、すごく安心する。



ま、まぁ?



蓮じゃなくったって、きっと安心したんだろうけどねっ。



って。


何で蓮のことになるとこうやって考えちゃうんだろ。



素直に嬉しいなら嬉しいでいいのに………どうして否定せずにはいられないんだろ。



もしかして、あたし………。




……蓮じゃなくても平気、って否定することで、自分の気持ちを抑えてるのかもしれない。



今まで誰かのことを、わざわざ自分に“好きじゃない”なんて、言い聞かせたりしなかった。




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確かに女の子扱いしてくれる人は全然いなかったから、


そういう扱いをしてくれる蓮が新鮮だった、っていうのもあるのかもしれない。



けど、結局それが単純に、あたしは嬉しかった。



………なんだ、まんまと蓮の罠にハマっちゃってたんだ。



気づかないようにしてたのに。



もう手遅れみたい。



それくらい、あたしはもう―――……




蓮のことが、好きなのかもしれない。





「飲み物買ってくる」




あたしが………自分の気持ちに気づいたことを知るはずもない蓮は、そう言って飲み物を買いに行ってしまった。



1人残されたあたしは、頭の中が蓮のことでいっぱいになってた。



いろいろ考えてるうちに肌寒く感じて、朝着てたパーカーを羽織った。




これからどうしよう。


どうやって気持ちの整理しよう。


いや、気持ちの整理するもなにも、好きって気づいちゃったんだから、それ以外何でもない。




――…そうやって、自問自答を何度も繰り返して。



ソレは突然やって来た。




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「女の子がこんな所で1人なんて珍しくね?」

「なになにー、友達待ちー?」

「つーか、可愛いんだけど!」




ソレとは、明らかなナンパ。




対応がめんどくさくなり、“彼氏います作戦”をさっそく決行した。



だけど、しぶとくてなかなか去ってくれなかったから困った。



暇なだけでナンパしてるんだろうけど、ほんとにそれがこっちにとっては大迷惑で。



誰でもいいんだったら、山ほどいる可愛い女の子の方に行けよって思った。




けど、数分後には


……眉間にシワを寄せて、イライラがもろ外に出てる蓮が戻ってきてくれたから助かった。




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「またナンパかよ」


とか


「なにナンパされちゃってんだよ、澪ちん」




とか、あたしを変な風に呼んで、いったいナンパに怒ってんのか、あたしに怒ってんのか分かんないこと言い出した。




「え?あたし注意されてんの?」


「この前もナンパされてたの誰だよ」


「いや、あれはナンパじゃないし。ただの暇潰しでしょ?てか、されたあたしがいけないの?!」


「そうじゃね?澪が可愛すぎるからいけねぇんだよ、なぁ?」




しかもいきなり蓮は『なぁ?』とナンパ男に話を振ったりするから冷や汗かいた。



もしかしたらケンカしちゃんじゃ、って心配になったけど。




「てめぇこそ誰だよ。なに人の女ナンパしてんだよ」




蓮のその言葉でナンパ男たちが去っていったから安心した。




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解放されたあたしは、肩の力が抜けた気がした。




「澪さぁ、ナンパされすぎ」




そんなあたしに、蓮は呆れたようにそう言う。




「そんな事言われたって、あたしがいけないんじゃないんだからしょうがないじゃん」




たまたま暇潰しの相手が“あたし”ってだけで、誰でも良かったんだろうし。



今度蓮は、あたしの隣に腰を下ろしてため息をあからさまについた。



ちょ、何なのこいつ!

言いたいことあるなら、はっきり言えばいいのに!



隣に座る蓮を思わず疑視した。



そしたら、蓮もあたしの顔を見てきたから、自然と目が合って――…。




「な、何よ」




まだ呆れたようにジッと見てくるから、視線を逸らしたくても逸らせなくなった。



いい加減何か言ってよ!、と叫びたかったけど、それはバカみたいだから止めて、


頑張って上から目線で小さく抵抗してみた。




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「気付いてねぇの?」




やっと聞けた蓮の言葉は、何のことだかさっぱり分かんなかった。




「……はい?」


「はい?じゃねぇよ、鈍感」


「鈍感?!あたし鈍感じゃないし。むしろ勘いい方だし」


「勘とかの問題じゃねぇ。澪さぁ、そこらの女なんかより断然可愛いの気付かねぇの?」


「へ?」


「まぁ顔で好きになったわけじゃねぇから、そこは勘違いしないでほしいけど、」


「……」


「そこら辺の女なんかより、澪のが可愛いって思うんだけど」


「……」


「正直言って、一目惚れだったのかもしれねぇし」


「……」


「いや、それはねぇかなぁ?あの頃巨乳の女の子と遊んでたし、特定の女とかいらなかったし」


「……」




1人でしゃべり続ける蓮。



あたしは………ただ聞いてることだけしか出来なくて。



内容をちゃんと理解してるかって聞かれたら、してないかもしれない。




「じゃなくて、マジで自覚した方がいいと思うんだけど、」


「……」


「澪は、そこらの女より可愛いんだから」




……うん。



この男は何を言ってるんだろう。




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さっきから聞いてれば“可愛い可愛い”って、からかうように連発して。



そんなこと絶対に思ってないし。



……蓮からしたら鈍感らしいあたしだって、さすがにそのくらい分かるし。



そう、分かってる。



分かってるんだけど………どこかで嬉しい自分もいる。



今までは誰かに“可愛い”なんて言われるようなタイプじゃなかったから、ドキドキすることだってなかった。



実際に蓮が思ってる思ってない関係なく、素直に嬉しい自分がいて。



それが今まで感じたことない気持ちだから、何て答えて、どう反応すればいいのか分かんない。



照れるのも柄じゃないし。

可愛く返せないし。


『知ってるー』なんて言って、ふざけて認めるのも恥ずかしいし。



どうしたらいいの?

マジでこういう場合どう反応したらいいの?




………なんて。


まずチャラ男に動揺してる時点で、完全に蓮の罠にハマってんだなって思うんだけど。




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そんな自分にムカつくけど、今となってはどうしようもない。



ただ、第一印象が最悪だったからか、会った日から気付かないうちに気になってたのはある。



チャラ男が大嫌いだったから、最初は蓮のこと大嫌いだった。



付き合うとか友達になるとか以前の問題で、男としてあたしの中ではあり得なかった。



そんな蓮のことを、ふと気付くと考えてて、


大嫌いだからこそ気にしなきゃいいのに、逆に気にしちゃって……。



どうも、あたしがあたしじゃないみたいで調子が狂う。



――…そうやって、あたしが蓮のせいで頭を悩ませてるとき、突然そのきっかけはやって来た。





「真面目な話、していい?」




さっきとは何かが違う蓮。



思わず、『え?』と声に出してしまった。



断る理由もないから、『うん』と答える他なかった。



蓮はさっきのようにあたしの目を真っ直ぐ見てきた。




「好きなんだけど、澪のこと」




わざと甘い声で言ってるんじゃないかって疑うくらい甘い声で………そう言ってきた。




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