それから少し休むとあたしの体調も良くなり、3人で救護室を後にした。
荷物置き場に戻ったあたしたちだけど、あたしは1人で大丈夫だったから、
晶乃と蓮にはウォータースライダーに戻ってと伝えた。
まだそんなに時間は経ってなかったし、順番が来るのは当分先そうだったし、
せっかくだから2人には乗ってほしかった。
晶乃は嫌がってたけど、あたしが無理矢理背中を押したのと、
蓮の『俺が残る』の一言で、結局行ってくれた。
………そして。
今は蓮とまた2人きりという状態に至る。
「ねぇ、蓮も行ってきていいよ?あたし1人で大丈夫だから」
あたし的には、蓮にもウォータースライダーに乗ってきてほしい。
……なのに。
「病人1人置いていけるわけねぇだろ。また倒れられたら困る」
蓮は断として、ここを動く気はないらしい。
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でも、本当は蓮がそばにいてくれて嬉しくないわけじゃない。
むしろ……嬉しい。
倒れた時は意識がなかったから何も思わなかったけど、今思えば、怖くてたまらない。
みんなの記憶がある時に自分だけの記憶がないなんて、そんな恐怖あるだろうか。
話を聞いて初めて自分の身に起きた事の重大さに気がついた。
だから………正直こうして蓮がそばにいてくれるだけで、すごく安心する。
ま、まぁ?
蓮じゃなくったって、きっと安心したんだろうけどねっ。
って。
何で蓮のことになるとこうやって考えちゃうんだろ。
素直に嬉しいなら嬉しいでいいのに………どうして否定せずにはいられないんだろ。
もしかして、あたし………。
……蓮じゃなくても平気、って否定することで、自分の気持ちを抑えてるのかもしれない。
今まで誰かのことを、わざわざ自分に“好きじゃない”なんて、言い聞かせたりしなかった。
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確かに女の子扱いしてくれる人は全然いなかったから、
そういう扱いをしてくれる蓮が新鮮だった、っていうのもあるのかもしれない。
けど、結局それが単純に、あたしは嬉しかった。
………なんだ、まんまと蓮の罠にハマっちゃってたんだ。
気づかないようにしてたのに。
もう手遅れみたい。
それくらい、あたしはもう―――……
蓮のことが、好きなのかもしれない。
「飲み物買ってくる」
あたしが………自分の気持ちに気づいたことを知るはずもない蓮は、そう言って飲み物を買いに行ってしまった。
1人残されたあたしは、頭の中が蓮のことでいっぱいになってた。
いろいろ考えてるうちに肌寒く感じて、朝着てたパーカーを羽織った。
これからどうしよう。
どうやって気持ちの整理しよう。
いや、気持ちの整理するもなにも、好きって気づいちゃったんだから、それ以外何でもない。
――…そうやって、自問自答を何度も繰り返して。
ソレは突然やって来た。
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「女の子がこんな所で1人なんて珍しくね?」
「なになにー、友達待ちー?」
「つーか、可愛いんだけど!」
ソレとは、明らかなナンパ。
対応がめんどくさくなり、“彼氏います作戦”をさっそく決行した。
だけど、しぶとくてなかなか去ってくれなかったから困った。
暇なだけでナンパしてるんだろうけど、ほんとにそれがこっちにとっては大迷惑で。
誰でもいいんだったら、山ほどいる可愛い女の子の方に行けよって思った。
けど、数分後には
……眉間にシワを寄せて、イライラがもろ外に出てる蓮が戻ってきてくれたから助かった。
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「またナンパかよ」
とか
「なにナンパされちゃってんだよ、澪ちん」
とか、あたしを変な風に呼んで、いったいナンパに怒ってんのか、あたしに怒ってんのか分かんないこと言い出した。
「え?あたし注意されてんの?」
「この前もナンパされてたの誰だよ」
「いや、あれはナンパじゃないし。ただの暇潰しでしょ?てか、されたあたしがいけないの?!」
「そうじゃね?澪が可愛すぎるからいけねぇんだよ、なぁ?」
しかもいきなり蓮は『なぁ?』とナンパ男に話を振ったりするから冷や汗かいた。
もしかしたらケンカしちゃんじゃ、って心配になったけど。
「てめぇこそ誰だよ。なに人の女ナンパしてんだよ」
蓮のその言葉でナンパ男たちが去っていったから安心した。
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解放されたあたしは、肩の力が抜けた気がした。
「澪さぁ、ナンパされすぎ」
そんなあたしに、蓮は呆れたようにそう言う。
「そんな事言われたって、あたしがいけないんじゃないんだからしょうがないじゃん」
たまたま暇潰しの相手が“あたし”ってだけで、誰でも良かったんだろうし。
今度蓮は、あたしの隣に腰を下ろしてため息をあからさまについた。
ちょ、何なのこいつ!
言いたいことあるなら、はっきり言えばいいのに!
隣に座る蓮を思わず疑視した。
そしたら、蓮もあたしの顔を見てきたから、自然と目が合って――…。
「な、何よ」
まだ呆れたようにジッと見てくるから、視線を逸らしたくても逸らせなくなった。
いい加減何か言ってよ!、と叫びたかったけど、それはバカみたいだから止めて、
頑張って上から目線で小さく抵抗してみた。
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「気付いてねぇの?」
やっと聞けた蓮の言葉は、何のことだかさっぱり分かんなかった。
「……はい?」
「はい?じゃねぇよ、鈍感」
「鈍感?!あたし鈍感じゃないし。むしろ勘いい方だし」
「勘とかの問題じゃねぇ。澪さぁ、そこらの女なんかより断然可愛いの気付かねぇの?」
「へ?」
「まぁ顔で好きになったわけじゃねぇから、そこは勘違いしないでほしいけど、」
「……」
「そこら辺の女なんかより、澪のが可愛いって思うんだけど」
「……」
「正直言って、一目惚れだったのかもしれねぇし」
「……」
「いや、それはねぇかなぁ?あの頃巨乳の女の子と遊んでたし、特定の女とかいらなかったし」
「……」
1人でしゃべり続ける蓮。
あたしは………ただ聞いてることだけしか出来なくて。
内容をちゃんと理解してるかって聞かれたら、してないかもしれない。
「じゃなくて、マジで自覚した方がいいと思うんだけど、」
「……」
「澪は、そこらの女より可愛いんだから」
……うん。
この男は何を言ってるんだろう。
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さっきから聞いてれば“可愛い可愛い”って、からかうように連発して。
そんなこと絶対に思ってないし。
……蓮からしたら鈍感らしいあたしだって、さすがにそのくらい分かるし。
そう、分かってる。
分かってるんだけど………どこかで嬉しい自分もいる。
今までは誰かに“可愛い”なんて言われるようなタイプじゃなかったから、ドキドキすることだってなかった。
実際に蓮が思ってる思ってない関係なく、素直に嬉しい自分がいて。
それが今まで感じたことない気持ちだから、何て答えて、どう反応すればいいのか分かんない。
照れるのも柄じゃないし。
可愛く返せないし。
『知ってるー』なんて言って、ふざけて認めるのも恥ずかしいし。
どうしたらいいの?
マジでこういう場合どう反応したらいいの?
………なんて。
まずチャラ男に動揺してる時点で、完全に蓮の罠にハマってんだなって思うんだけど。
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そんな自分にムカつくけど、今となってはどうしようもない。
ただ、第一印象が最悪だったからか、会った日から気付かないうちに気になってたのはある。
チャラ男が大嫌いだったから、最初は蓮のこと大嫌いだった。
付き合うとか友達になるとか以前の問題で、男としてあたしの中ではあり得なかった。
そんな蓮のことを、ふと気付くと考えてて、
大嫌いだからこそ気にしなきゃいいのに、逆に気にしちゃって……。
どうも、あたしがあたしじゃないみたいで調子が狂う。
――…そうやって、あたしが蓮のせいで頭を悩ませてるとき、突然そのきっかけはやって来た。
「真面目な話、していい?」
さっきとは何かが違う蓮。
思わず、『え?』と声に出してしまった。
断る理由もないから、『うん』と答える他なかった。
蓮はさっきのようにあたしの目を真っ直ぐ見てきた。
「好きなんだけど、澪のこと」
わざと甘い声で言ってるんじゃないかって疑うくらい甘い声で………そう言ってきた。
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