チャイムの音が鳴り響く午後三時半。HRが終わり席を離れた男女達が立てる騒音に少しばかり気後れする。蒼は小さな溜息をついた。

「高野くん、行こう」

「あぁ」

蒼のそばに来たのは一人の華奢な女の子。触れそうで触れない、一定の距離を保ちながら二人はいつものように視線を交わした。

「真広くんと志奈ちゃんは委員会の用事済ませてから来るって」

「分かった。……ひかる!」

声をあげた蒼の視線を追うように彼女もまた、ひかるという名の人物を目で捕らえる。
教壇の前で多量のプリント用紙を抱えたひかるが一瞬きょとんとした表情を向けると、何かを理解したようにすぐ笑顔に切り替えた。

「ごめん、今日は一緒に行けない。父さんに呼ばれてるんだ」

肩を竦め、苦笑するひかるの方へ歩く二人は返事を言わずとも納得した顔を見せる。蒼はそのままひかるの前を通りすぎ教室を出た。ひかるは彼について行こうとする彼女に優しく声をかけた。

「よろしくね、橘さん」

軽く微笑み返す彼女は小走りで立ち去る。ドアの向こうに消えた後ろ髪を朧な目で思い返すひかるだった。