示したその先を照らし出そうとするが、当然蒼と彼女の位置からはどうなっているのか見えない。

「階段?」

「うん。よく見えないけど多分」

そこで真広が志奈の方を見た。志奈は小さく頷く。

「俺達ちょっと模索してくるわ」

「純子達はここで待ってて。もしかしたらもうすぐ助けが来てくれるかもしれないし」

「で、でも……」

「大丈夫、おしとやか~な純子ちゃんと違って、いざとなったらこっちには怪力女がいるから」

心配して引き止めようとする彼女に対し真広は冗談交じりに笑ってみせた。その後すぐ志奈に殴られたのは言うまでもないが、そのまま背を向けて消え去っていく二人の騒々しい声もすぐに聞こえなくなり辺りは静かになった。

取り残されたエレベーターの中蒼はその場にしゃがみ込んだ。彼女も、ゆっくりと腰を下ろす。
蛍光灯は不可解なリズムで今もなお点滅を繰り返している。

「大丈夫なのかな……あの二人」

ぽつり、と彼女が声を漏らした。

「まぁ……真広は危ないかもな。色んな意味で」

あえて不安にさせないよう、蒼は彼女に向かって軽く微笑む。そんな珍しい蒼の表情に彼女も少しだけ安堵した様子だった。志奈も真広も大人しくじっとしている性格でないことは充分知っていたが、事が事なだけに彼女が深く心配するのも無理はない。それでも今はそれに頼るしかないのだ。こんな事態になってしまったが、蒼は脳の片隅で未だ花のことを気にかけていた。このまましばらく助けが来なくても、あの二人が非常口でも見つけてくれればすぐにでも脱出して、あいつの元へ行かなければ。でなければ俺は―

「……高野くん?」

蒼は彼女の顔を見つめながら、ぼうっと考え事をしていた。頭の中に浮かび上がる院長の頼もしい声、ひかるの優しい気遣い、そして花の温かい笑顔。決して色褪せることのない存在なのに、思い出しただけで苦しくなるのはなぜだろう。
蒼が胸を押さえると、またあの時と同じ感覚が全身に響き渡った。