「高血圧であるとその網膜の動脈が細く硬くなり、その下を走る動脈を圧迫して静脈が詰まったり、動脈に血栓が詰まって視力低下を起こします。それにより、白内障になるリスクが高まるそうです」


ですが、と一呼吸置く。


「初めて会ったとき、あのご老人は低血圧で倒れていましたね」


あ、と恵理夜が小さく声を漏らす。


「低血圧であると、血流が悪くなり視神経にダメージを与えることから、緑内障になるリスクが高まるそうです。眼球の白濁はかなり進んでおりましたから、白内障の手術が必要なのは間違いなかったでしょう。それでも、手術をしなかったということは……」

「緑内障との併発で、手遅れだった……」

「……そういうことでしょう」


桜祭りのときに、気付くべきだった。

あの時、すでに老人の焦点は合っていなかった。