給湯室でいつものようにお茶を注ぐ。ふと、背後に人の気配を感じて美知子は振り返った。そこには滅多に給湯室になど来ない森山の姿があった。

 周囲を伺いながら気まずそうにこちらへとやって来る。不審な挙動はまるで犯罪者のようだ。美知子はお茶を汲んでいた手を止め、じっと森山を見つめた。

「こ、これで黙っていてくれるね。……いいね? あの事は無かったことにしてくれよ」

 そっと渡された茶封筒の中身を確認する。一万円札が十枚。

「……馬鹿にしないでいただけます?」

 美知子はその茶封筒を床に放り投げた。腕組みをし、見下すように目の前の男を見つめる。森山の額から汗が流れ落ち、弛み始めた顎を伝った。

「い、いくら欲しいんだ」