「いらっしゃいませ」

 驚いて声がした方を見やる。いつの間にか店内から一人の青年が出て来ており、此方に笑顔を向けていた。まだ若そうだ。二十代半ばといった所だろうか。

「あの……」

「どのようなネイルをお探しですか?」

 青年はまたにっこりと笑いながら、和やかな口調で問い掛けた。

「き、綺麗になりたいの。願いを叶えてくれるって本当? だったら私、綺麗になりたいの。誰よりも、誰よりも!」

 言ってから美知子はハッと口を噤んだ。一体何を口走っているのだろう。まるで今まで圧し殺してきた願望が、一気に口について出た感じだった。

 大体、願いを叶えるだなんて、それはネイルを綺麗に着飾ってくれるだけの事だけではないか。

 美知子は急に恥ずかしくなり、俯いた。すぐに此処を去ろう。そうしようとした時だった。

「畏まりました。では、此方へ」

 青年は終始笑顔のまま、戸惑う彼女を店内へと導いた。