「最近、調子に乗り過ぎよね」

 ハッと、トイレの扉を開く手を止めた。聞き慣れたその声の主を、頭の中で探る。

「美知子さーぁ、私が教えたネイルサロンに行ってないのよ? 信じられる? 私に嘘ついたのよ?」

 怒りが込められたその声は、紛れもなく横山里沙のものだ。何て事だ、嘘がバレてしまったのだ。

 美知子は速くなる鼓動を抑えながら、どうすべきかと思案した。今すぐ出て行って謝るべきか、それとも知らぬ顔で通すべきか。

「森山課長にも色目使ってるんでしょ?」

 里沙と一緒に入ってきたのであろう女性声が聞こえた。営業の津嶋ゆかりだ。

 ドクンと胸が苦しくなった。

「そうよぉ」

 色目を使った? 私が?

 謂れの無い誤解だ。そんな風に映っていたなんて。そんな風に思われていたなんて。ちっとも知らなかった。