青年は微笑んで、作業を開始した。段々と意識が遠退いて行くのは、気持ちが良い所為だろうか。甘い独特の香りに包まれて、まるで空の中をふわふわと浮いているかのようだ。

 美知子は識井達也を想った。このまま行けば、もしかしたら彼と付き合う事が出来るかも知れない。それどころか、結婚も夢じゃないかも知れない。

 一緒独身で居ると思っていた。男性とまともに付き合った事もなかった彼女は、きっとずっとこのままだろう、と。

 諦めていたのだ。

 だが。微かな希望が見えて来た気がする。

 美知子は嬉しくなった。自然と笑みが溢れる。ネイルひとつで、自分は『綺麗』を手に入れた。そして『素敵な笑顔』を手に入れる。

 次は何にしよう。誰にも負けないくらいの身体にしようか。

 幼い頃には沢山の夢を描いた。ピアニストだったり、保母さんだったり、お花屋さんだったり、ケーキ屋さんだったり。やりたい事が有りすぎで、そのどれもが実現出来ると信じて疑わなかった。