空に手を掲げ、彼女はうっとりと自分の指先を眺めた。

 ピンクベースのネイルに白い花が咲き、適当な箇所に小さなシルバーストーンが散りばめられている。両手の親指には花弁の中央に、少し大きめのピンクストーンを付けてある。

 週に一度、ネイルサロンに通うのが最近の日課になっていた。ハマった切っ掛けは同僚からの誘いであったが、今では一人で通うようになった。

 化粧映えのしない、のっぺりとした顔の美知子は、お世辞にも綺麗とは言い難い。しかし、こうやってネイルを綺麗に飾る事で、同僚から、男性から、『綺麗だね』と言って貰えるのだ。

 彼女にはそれが堪らなく嬉しかった。

 今週も、勿論ネイルサロンへと足を運んだ。運ぶ筈だった。

「こんな所にネイルサロンなんてあったかしら」

 いつものネイルサロンへ行く途中、道端に目を惹く看板が現れた。いや、現れたという表現は正しくないかも知れない。だが彼女には、目に飛び込んで来たソレが正しく『現れた』と表現を用いるのにぴったりなくらい、突然だったのだ。