いよいよ詩織とIT企業の若社長とのお見合いの日がやってきた。


セレブな両家のお見合いらしく、場所は都内でも有名な風情のある高級割烹料亭が会場となった。


約束の時間より少し早く到着した詩織は一人中庭に佇んで、ほんの一時間ほど前にシチローが話していた言葉を思い出していた……


『いいかい、詩織さん。君は自由が欲しいと言ったけど…
自由である事が必ずしも幸せであるとは限らない。
大抵の人間は、自由と共に社会の重い責任を背負って、時にはその重みに押し潰されそうになりながら必死に生きているんだ。
詩織さんには、その覚悟が出来ているのかい?』



「覚悟かぁ……」



そう呟く詩織は、中庭にある池の同じ所を何度も行き交い泳ぐ鯉の姿と今の自分とを重ね合わせて眺めていた。



やがて、先方のIT社長とその母親が現れ、詩織の父親『亀吉』と挨拶を交わし始めた。