「待って下さい!」


突然後ろから声を掛けられて、耕太はビクリと首をすくめて立ち止まった。


そしてそれが詩織だと判ると、尚更驚いた。


「どうしたんですか?」


不思議そうに尋ねる耕太に、息を切らせながら詩織が答えた。


「だって…せっかく…本を…持ってきて…下さったのに…お茶ぐらい…ハァ……」


(それでわざわざ追いかけて来てくれたのか…やっぱり詩織さんは優しい女性だ。)


耕太は少し考えた。
そして眼鏡をずり上げながら詩織にこう言った。


「小銭持ってますか?」

「えっ、小銭ですか?…小銭なら……」


詩織は上着のポケットから財布を取り出し、五百円玉と百円玉を何枚か自分の掌に乗せた。


「じゃあ、僕はあれでいいです。」


そう言って耕太が指差したのは、すぐそばの夜の公園でひときわ明るく灯るジュースの自販機だった。