『そんなに近づかないでも、ちゃんと聞こえますよ!どのようなご用件でしょうか?』


スピーカーからの声を聞いて、慌てて顔の距離を離す耕太。そして、詩織に頼まれていた推理小説を届けに来た旨を、顔の見えない屋敷の中の相手に伝えた。


“少しお待ち下さい”と短い返答があった後、1~2分の間隔が空いた。
おそらく詩織へ確認を取りに行ったのだろう。


やがて、ガラガラとこもった金属音と共に重そうな門の扉が自動的に開いた。



「夜分に失礼します。」


広い庭園を通り抜け、そう言って耕太は玄関のドアを開けた。