カランコロン、と相変わらずトンチンカンなドアベルが鳴る。

「あ、こっちっすよ、こっち」
金髪男が立ち上がって手を振った。

他に客はいない。
もう一人の男も立ち上がってお辞儀をする。

指定した喫茶店。
亮二と再会して、初めてゆっくり話した場所。

博子が席につくと、マスターが水を追加で一つ持ってきてくれた。

「何にします?」としぶい声で訊ねる。

「いえ、私は何も…」

何もいらないと言おうとして、彼らの前に水しか置かれていないことに気付いた。

注文せずに待っていたようだ。

「アイスコーヒー、3つください」

マスターがカウンターの向こうに戻ると
「それでいいですよね」と博子は目の前の男たちに言った。

彼らは頷いたが、金髪男だけはなぜかその後に苦笑いをした。


ふたりはそれぞれ、橘直人と坂井浩介と名乗った。

「この間はリサが大変失礼なことをして、本当に申し訳ありませんでした」

「いえ、わかりますから、彼女の気持ち」

博子は目を伏せたまま答える。

「あの、お話というのは亮二さんのことなんです」

別に驚きもしなかった。
思った通りだったから。

「彼が何か」

無表情な博子に男たちは戸惑う。

「結論から言います」

直人は咳払いをして座り直すと、博子を見据えた。

「もう一度、亮二さんに会っていただけませんか」

しばらく沈黙が続いた。



店内に流れるジャズ音楽と空調の音がやけに大きく聞こえる。

「彼に言われて、ここまでいらっしゃったんですか」

「違います。これは自分たちだけの判断です。亮二さんは何も知りません」

博子は再び押し黙った。


マスターがアイスコーヒーを三人の前にそれぞれ並べていく。

しかし、誰も手をつけようとはしない。

「あの…ですね…」

たまらず、直人が口を開く。