「ねえ!今日来る研修生イケメンらしいよ!」


移動教室途中に話し掛けて来るのは、親友の1人の愛美だった。
「梨乃!行ってみよ!」
そう言って私の制服の袖をグイグイと引っ張る。「え?研修生って?」
研修生って何の事…?
そんなの聞いてないよ。
「今日先生言ってたよ?もしかして梨乃!また聞いてなかった!?」
「そのもしかしてです…」
人一倍、話を聞くのが苦手な私はまた聞き逃してしまったみたい。
「いいから行ってみよ!」
愛美は階段を昇り始めた。実は今、左足傷めてるんだよね…。
「あ、梨乃怪我してたんだった。ごめん!」
「大丈夫だよ。ありがと」
愛美って優しいなあ…。
と、つくづく思う。

階段を昇り終えると廊下には人だかりができていた。「あそこだあ!」
目を輝かせながら、愛美は立て付けの悪い戸の隙間から中の様子覗いた。
…一体どんな人なんだろ?俳優系?アイドル系?
皆が口を揃えてイケメンと言うのだから、きっとイケメンに違いない。
愛美が私を手招きして呼び寄せる。
私はそっと中を覗きこんだ。
そこには、黒いスーツを着た若い男の人。
私が更に覗き込んだ時…。視線がぶつかった。
「梨乃どう思う?」
「あ〜、イマイチかな。」
あんまりよく見えなかったけど…。
「だよねえ!うちも思った。」「あはは、行こっか?」
そう言った途端、学校中に予鈴が響き渡る。
ヤバイ。先生に怒られちゃう。でも、こんな足じゃ走れっこないし…。
はぁ……ついてないな私。きっと愛美も迷惑だよ。
「梨乃ゆっくりいこ?」
と、親友の助け船。
こういう友達をもった私はきっと幸せ者だ。
「あ、ありがとう」
そういうと、愛美は少し微笑んだ。