「何か心配事?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど・・・。もし彼女が私を陥れようとしているなら、指紋なんか残しているでしょうか?」

「ふむ・・・」
高橋も考え込むように、書いているメモに目を落としながら続ける。
「しかし、濡れ衣はいつまでも濡れてはいないものだよ。乾いてしまえばこっちのものさ。この世に完全犯罪なんてないんだから、必ず何かしらの痕跡は残しているよ」

「はい、そう信じます。それに刑事さんが、『覚せい剤っていうのはこぼれるものだ』って言ってました。袋から反応あるかもしれませんしね」
勇気付けられたのか、希望を見出した顔で雪乃は言った。

「そうそう、君がそんな顔していると、工藤君が悲しむんじゃないかな」
意地悪そうに言う高橋に、雪乃は顔を赤らめてうつむく。

「彼は本当に心配しているよ。毎日のように電話があるし、ここにもしょっちゅう来ているんじゃないのかい?」

 事実、毎日のように工藤は来たし、本や雑誌の差し入れも職員が「いい加減にしなさい」と注意するくらいの量をしてくれていた。