-まったく、どいつもこいつも相手になんてなりゃしない。

あたしは頭の中で悪態を吐きながら、アスファルトの上の小石を蹴る。



あたしの名前は早瀬アキラ。
アキラってのは、本名。男みたいだとよく言われる。
本当は水晶の晶って書いて、アキラ、と読むらしい。
何でも、かつてお父さんとお母さんが一緒に暮らしてて仲良かった時、つまりあたしが生まれた時、二人は「水晶のように透き通った心と、綺麗な外見をした女の子に育ってほしい」と名前を付けたんだそうだ。

あいにく、そうはならなかった。残念だけど。

今のあたしは水晶どころか、きっと思いっきり濁った心をしてると思う。
喧嘩っ早くて、幼稚園でも小学校でも中学校でも男子相手に取っ組み合いをしてた。
高校2年になって、ようやく少しは落ち着いてきたかなとは思ったけど、周りから見るとそれはどうも間違いらしい。「取っ組み合い」が、「叩く、蹴る」に変わっただけだって言う。おまけに口が悪いのも治らない。

見た目だってそう。あたしは申し訳程度にボブカットと言える、短く切った黒髪を触る。
制服はスカートだから、一応履いてはいるけどさ。私服でズボン履いてたら、きっと周りの人はわかんないんじゃないかな。実際、動きづらいからズボン以外履かないし。だって、走ったり蹴ったりするの難しいじゃん。


つらつら、そんな事を考える。


今日の相手は合計で3人。
放課後、あたしが帰ろうと校門を出た途端、いきなり目の前にでーんとでかいヤツが現れたかと思うと、「早瀬、今日こそはぶんのめしてやるからな」と、三文芝居でも吐かないような台詞を言った。
3組の小林だった。
そういや、前に思いっ切り頭どついてやったことがあったっけ。少ししてようやく思い出した。

小林は助っ人を二人従えてかかってきたけど、結局すぐあたしにのされた。
あっけなさすぎ。そう思う。


第一、前回どついたのも、あれは購買の棚の前でたむろしてて邪魔になってたからだった。周りの女の子も怖がって近寄れないみたいで、みんな困ってたし。



「自業自得だっての」
もう一回、石を蹴る。
小石は軽快に宙を飛んで、道路の脇に入って見えなくなった。