「殺す…って…。中絶はちゃんと法律で認められてることなんだよ?」

よっちゃんは冷静に話してて、あたしだけがムキになっていた。ゆいちゃんは黙って聞いていた。

「そんなのただの理屈だよ!ねぇ、知ってるの?中絶させる時、赤ちゃんてお腹の中で逃げ回るんだよ?何センチにもなってない小さな赤ちゃんが!」

よっちゃんは黙った。
手を顔に添えながら、ゆいちゃんはちょっと悲しい目をしていた。

「みさきさん…?」


「………家さぁ、お姉ちゃんとこ、母子家庭でお姉ちゃん、二人目の子供、中絶してるんだ。」


その時聞いた話は衝撃的だったし、3才になるあたしの甥っ子は、パパの存在を気にしていた。


だから…
あたしは堕胎とか、シングルマザーとか…、心が受け付けられない。


カノンちゃんがどうこういうんじゃない…。あたしは彼女に情なんてないもん。ただ…、お腹の赤ちゃんのことが……気の毒なの…。



沈黙になった中、ゆいちゃんが口を開く。

「よっちゃんはももちゃん目線なだけですよ。

『ホントに好きになったコとちゃんと付き合うために元カノに別れ話をしたら、妊娠したなんて言われて…本命にばれて振られて仕方なく責任とって結婚…。そんなの可哀想すぎる…』みたいな?」

「………………」

「………それはそれで間違ってはいないですよね…。」 







あたしたちは微笑むように笑い合った。 





分かってるんだよ、みんな。 






誰にも、決められないよね。 









話してて、なんかすっきりしてきたよ。 








逃げじゃなく、 
負けじゃなく、 

本当に…これでいいの。 


あたしがそう言うと、二人は笑った。 





きっと今度は、心から笑えそうだよ。