ここはそんなに都会でもない街。深夜は、駅前以外は交通量は少ない。運転に慣れた地元人は、この時間ほとんどの人がかなりのスピードで車を走らせる。
初心者のゆいちゃんが追い付けるはずもなかった。 

「無理ですよ〜みさきさん。もう見えなくなっちゃった。」 

赤信号で停車させたゆいちゃんが少し斜めになったシートにもたれかかりながら言った。 

あたしは辺りを見回す。 でもなにも見つけられなかった。 
あたしも力が抜けるようにシートに倒れこんだ。  
「どうしたんですか?」

あたしの頭の中は、さっきの光景がぐるぐる回っている。 
 
「みさきさーん?」 

整理しきれない頭で、あたしはゆいちゃんに話し始めた。

「カノンちゃんの、車が……運転……してたの…カレシ?……ももちゃんがいた。」 
「え?ももちゃんが?いたんですか?……どこに?」
「ねえ!ゆいちゃん!」

あたしは起き上がって運転席に身を乗り出した。 

「カレシの顔見た?」 
「へっ?」 
「運転してた人の顔見えた?」
「まぁ…見えましたけど……え!? 
どういうことですか?」

「…………ももちゃんだった……。」
「意味が分かんないんですけど!?なに?カノンさんのカレシが?」
「あたしだって意味がわかんないよ!」