あたしはタオルを洗面台で濯いでいた。 
ももちゃんはビールを飲みながら柱に寄り掛かるように隣に立って言った。 

「名前でいいんだけど。」
「え?」
「呼ぶの。」
「名前って………シュン?」 

口に出した途端、心臓が強く鳴る。 
顔が熱くなる。

「無理ッッ!」 
「はぁ?なんで?」  
「なんで…って……。」

呼び方を変えるってだけでも難しいのに…、急に名前を呼ぶなんて…… 

恥ずかしいじゃんッ!!



でも… 

「いいけど別に〜…」

ももちゃんはキッチンの方に歩いていった。 

「ももちゃん〜…。」

あたしは濯いでいたタオルをギュッと絞って、洗濯機の前にかけた。

「もうビールやんないし〜。」

ももちゃんはそう言って、冷蔵庫から出した缶ビールをチラチラさせた。 

「ももちゃん〜!」
「しゅ・ん〜?」
「……………」
 
あたしは俯いた。 

呼びたいよ。あたしだって…。でも……

「恥ずかしくて呼べないんだってば!」
「…………プッ…あはははッ!」
 
ももちゃんはお腹を抱えて大爆笑した。 

「なに!?」

「まあ、そのうちよろしくね。」 

そう言ってあたしに缶ビールを渡した。ももちゃんはソファーに座る。
ジッと見つめたら、ももちゃんはニコッて……笑いかけた。

「ほら、おいでよ。」
笑って、あたしに手招きする。…その顔が…、何だかとても……、とてもとても胸が痛くなるように、愛しくて……。
あたしはももちゃんに抱きついた。
抱き締めた。
ギュッと……。


「そのうち…呼ぶからね。…………俊……。 」



ももちゃんがあたしをギュッと抱き締めた。