あたしは頃合いを見計らって玄関の扉を開けた。

ちょうどなおくんはケータイを切った直後で、ホッとしたような顔で玄関から入ってくるあたしを見た。 
「愛希ちゃん、タバコあった?」

「…………うん。」

あたしが本当にタバコを取りに行ったと思ってるのかな? 

それとも、あたしがなんか気付いたって分かってる…?

あえて触れないようにしたの? 


なおくんはあたしの手を引いてソファーに座らせた。 

あたしは……、 
少しだけ突いてみた。 

「電話大丈夫だった?友達……。」

「あー…、平気平気。全然くだらない話だったから、彼女が来てるって言って、さっさと切っちゃったよ!」

「彼女……?」


うそつき。 
聞いてたんだからね、あたし。 
そんな会話一言もしてないじゃん。


「彼女でしょ♪♪」


なんか、むなしい。 

悲しい。 



あたしは目の前にあったビールを手にとって、一気に飲み干した。 

「おー…、飲むねぇ♪」

「おかわり!」

「はいはい♪」

なおくんは冷蔵庫から再びビールを取り出して、あたしに渡した。 


さっきとなにも変わらず、くっついてくるなおくんに、あたしは少し苛立ちを感じた。 



さっき… 

少しだけ、思ったの。



話の途中で、大きな声でドア開けちゃおうかな…って。 

「ただいまー!」って声が、電話の相手の『彼女』に聞こえるように言ったら……、なおくんはどうする?

どんな態度をとる? 



そう、思ったけど……、 

そんなことあたしにはできない。 




今だってホントは聞きたい。 


『ホントは彼女とどうなってるの?』

『ホントはあたしをどう思ってるの?』




でも……できないよ。 





あたしはなおくんの肩に寄り添った。