「名前は保坂尚也。ちゃんと言えなくてごめん…。最初に違う名前言っちゃって……、きちんと話すタイミングがなかなか掴めなくて……。愛希ちゃん、オレの事‘なおくん’って呼ぶから、つい忘れてたりもした。ホントごめん……。」

「…………」

「……嘘は、付いてたよ。でもホントに彼女はいないんだよ。………今は…。」

「‘今は’って……?」

「オレ、同じ女と4回別れてるんだ…。」

「は…?」

あたしは意味が分からなかった。 
‘4回別れる’? 
それはどんな状況なんだろう? 
あたしは話を続けてくれるように、なおくんの顔を見た。

「4回別れて、3回はより戻ってる。こんな話したら‘また彼女と戻るんじゃないの?’って疑われるんじゃないかって……、だからそんな話愛希ちゃんにしたくなかったんだよ…。」 

なおくんは俯いたまま顔を上げない。
時々手で、目の周りを擦っていた。 


泣いてるのかな…? 


なおくんが言うように、あたしは多分なおくんの言うことを信じられない。


彼女の所にもどる? 

たぶんずっと頭から離れないのかもしれないけど…。


でも、いい。 

あたしにも忘れられない人がいる……。 



ももちゃんよりも好きか分からないけど…


彼女の所に行かれちゃう不安はあるけど……



でも 





今はここにいたい…。 




あたしは俯いたままのなおくんを抱き締めた。