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「なぁ、圭。あの子、知ってる?」

下校時間、教室で帰り支度をしていると、クラスメイトに声を掛けられた。
促されるまま、窓の外に目をやる。
そいつが指さしていたのは、ひとりで歩く咲恵だった。


「……いや……見たことはあるような気がするけど、よく知らない」

「だよな。誰に聞いても、似たようなこと言うんだよな」

「なんで?」


落ち着かない気持ちで、俺は鞄の中にノート類を突っ込んだ。


「あの子さ。いつも、ひとりじゃん」

「そうなん?」

「うん。あんな、美人なのに。全然表情変えねぇし、なんか俺最近気になっててさ」


美人?咲恵が?そんなこと、考えたこともなかった。
明るい表情なんかちっともしないし、
泣いてばかりの彼女が美人だなんて、
彼女を評価する言葉からはもっとも遠い気がした。


「でさー、あの子のこと気になってるヤツは結構多いみたいで。ホラやっぱ、美人じゃん。何人か声かけてみたヤツもいるらしいんだけど、無反応なんだってさ」

「無反応……」

「そ、無反応。一応会話にはなるらしいんだけど、なんか、ビミョー、っつうかさ」

「へぇ……」

「あんなに美人なのになぁ……俺も声かけてみよっかなぁ」

「……美人か?あれ」

「え?美人でしょ。文句なしに」

「ふぅん……」


窓の外にもう咲恵はいなかったけれど、俺は彼女の姿を探すように外を眺めた。
今日も、夜になれば咲恵は俺の部屋にやってくる。
自分の冷たい体を抱き締めて、心細そうな顔してやってくる。
俺はなんにも言わずに―――ただその体を抱き締めて、
彼女の孤独で自分の孤独を中和して眠る。


「今度メアドとか聞いてみよっかな」