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毛布の中をまさぐって、温もりを求めた。

苦しくてうまく動かない俺の指は、
慣れた体温に触れてやっとの事で安心する。

湿った小さな手が、
弱々しく、
けれどしっかりと俺の手を握り返した。


夜が明ける。

太陽が昇る。


怯えて俺は彼女の側で縮こまり、彼女が俺を抱きしめようとする。
吐息が体にかかるのを感じると、俺はきまって彼女の頬にくちびるを寄せた。


「朝が来るよ……」

「うん……」

「寒い?」

「―――お前が、帰ってからが、寒いんだ……」

「あたしもだよ。あたしも、寒いの……」


そんなやり取りをしてから、
活動を始めなければならない朝までの時間を、俺たちは眠る。


頭に霧がかかる。
咲恵の寝言のような言葉を聞きながら。


「寒いの……寒い……でも、今は、……」


その霧は白く白く濃くなって、
やがて雨になる。

力任せに咲恵を抱きすくめて、気を失うように、眠るのだ。


「ずっと……そのまま……」


咲恵も眠る。

それはまぎれもなくたった一つの眠りを俺たちが共有する瞬間だった。



(こんなんじゃ駄目だ。こんなのは、いけないんだ)



確かに頭の中で声がする。
でも、咲恵を知ってしまった俺は、もう後には戻れない。

だって彼女の温もりは、
いつも俺と溶け合うようで、
なめらかで、
俺の心のいちばん触れられたくない所を包み込むのだ。


でも、俺は気付いていた。


彼女の奥底の遠い所。

ひどく冷たい、自由の風が吹いていることを。



そして今日も、絶望の朝がやってくる。