穏やかに笑う女王の瞳が曇る。

「でも最近、他国で悪い噂を耳にしたわ」

「他国でって…女王、てめぇまた抜け出したな」

ギロッと睨まれ、女王はとりあえず笑ってみた。

「笑ってごまかすな」

「まぁ、細かいことは置いといてね。ユスタリア国で反乱の兆しがあるって」

「近いな。でもユスタリア国王は稀にみる賢王だ。国民も不満なんて…」

「確かに賢王だわ。でも、全ての人が彼を賢王とは思わない。私だって女傑と言われ、皆が慕ってくれるけど、時には非情な裁断をしなければならないし、そうではなくても、私が気がつかないところで不満を持ってる人は必ずいるわ。今はそれが表立ってないだけ」

ちやほやされれば目が鈍る。それだけは避けなくてはいけない。彼女が町へ出るのはそのため。

噂はいつも人を狂わせる。

人の虚妄に隠された事実と真実を見極めなければならない。

それが人の上に立つものの役目。

「それにアスタリア国では聖少女を捕らえようとしてるみたいだし」

「あの聖少女を?」

「そ。創造神ゼウスの3人の愛娘。それぞれが空・陸・海を司り、人々に加護をあたえるという、もはや伝説どころか埃を被ったお伽話クラスのお姫様たちよ」

「ふーん……アスタリアも必死だな。そんな伝説に縋るなんて」

「もしそれに確証があるとしたらどうする?」

「へ?」

「神に匹敵する力を手中におさめることが出来たなら、国どころか世界は思うままよ」

「確証って…どういうことだ?」

「アスタリアの魔術師が陸の神殿を見つけたらしいの」

「陸の神殿ってマジか?今までどこ探しても見つかんなかったんだぞ」

「どうやって見つけたのか、そこまでは私にはわからないけど、最近のサミットでアスタリアが強攻な姿勢でいる訳の説明はつくわ。アスタリアの国力はほとんどない。だけど、聖少女を手に入れていたら…」

「まずいな。何か手をうたないと……」

とにかく情報が足りなさすぎる。

「誰か送るか」

「フィオレを送っておいたわ。連絡は「フラワー」っていう宿でとる手筈になってるから」

ナリアは地図を広げ指を指す。

「相変わらず手際がよいことで」

「じゃんけんに勝つには相手が何をだすか探らないとね」