魔性の女を人々は魔女と呼ぶ。人成らざる力を使い、世界に混沌を招く存在。

「ゆえに魔女は滅ぼさなければならぬのだ!」

声高らかに宣言するのは神に愛され、神に与えられた力を使う選ばれた男。世界に安寧をもたらす彼らを人々は『神子』と呼び、敬い慕う。

世界は神子がいなければ廻らない。

誰もが神子には逆らえなかった。否、逆らう者などいなかったのだ。

「愚か者どもめ」

神子の言葉を聞くために集まった群集の中で老婆はポツリと呟いた。

「何故気がつかぬのか…」

周囲を見渡す老婆の瞳は氷のように凍てついていた。

「これ以上は無駄骨かの」

素早い身のこなしで群集の間を擦り抜ける。

広場から少し離れた場所で老婆は杖を出す。

「解呪」

言葉とともに老婆は光に包まれる。

次の瞬間、現れたのはみすぼらしい老婆ではなく、美しい娘だった。

「オババ魔法はやっぱダメね。肩凝る~」

肩を回す少女はうーんと背伸びをした。

少女はちらりと背後を振り返る。そこにはまだ声高らかに演説をぶちかます神子があった。

「魔性の力ねぇ~そもそも魔術と神術は同じ力だって知ってるのかしら?」

それらはかつて魔法と総称で呼ばれていた。

魔法は人が内に秘める魔力をもとに誰もが操ることが出来るが、習得するためにはかなりの根気とセンス、そして天性の才が必要なため使える者はごくわずかしかいなかった。

さらに魔法には厄介な特性があった。

主に攻撃用に使われる『黒魔術』は女にしか使えず、また防御や回復が主になる『白魔法』は男にしか使えなかったのだ。

詳しいいきさつは知らないが、恐らくは破壊の魔法を使う女性たちに嫉妬し恐れた男共が彼女たちを異端者として狩り始めたのが事の始まりだろう。

民衆に広まったただの噂は長い年月を経て真実となり、魔を狩る彼らを神の使いとしていつしか崇めるようになった。