『あなたを見て、久しぶりに私の中で闘志が湧いてきたのよ。いい意味でね。』



キョトンとした私に優しく微笑み返してくれる。



『日本に帰って、早速うちのパティシエに同じようなロールケーキを作らせたの。でも、パリで食べたあの味を出せるパティシエは残念ながら1人も居なかったのよ。悔しいけれど、私もその中の1人。』



ウソでしょっ!?
あんなの簡単だよ。



『私が今まで求めてきた見た目と味を、見事にいい具合に裏切ってくれたのよ、あのロールケーキが。』



『あの、言ってる意味がよくわかりません。』



こんな私が、一流パティシエに
勝てるわけないじゃん。



『誰にも出せない未知の味が出てた。』



『未知の…味!?』



『そう。まだ真新しい、何色にも染まっていない可能性に満ちた味。ぜひ、同じ舞台に立ってみたいと思ったわ。』



可能性に…満ちた味!?



確かに、あれは数え切れないほどの
試行錯誤を繰り返して
何度も練り直して出来た作品。



自分なりにも、
やっと納得のいく出来映えだった。