『食べた瞬間、とても懐かしい感じがしたの。遠い昔、どこかに置き忘れてきた何かに気付かされた気がしたわ。』
一瞬言葉を失って、長谷川先生から
目が離せなかった。
『確かにどこにでもある味なのかもしれない。お気に障ったらごめんなさいね。でも初めてよ、熱いモノが蘇ったのは。直接お礼が言いたくて。ありがとう。』
目の前に居るのは、ホントに
長谷川鈴江氏なの…!?
この言葉は、現実…!?
一粒の涙が頬を伝って落ちた。
誰のどの言葉よりも嬉しい。
『あら、泣くのはまだ早いわよ。今日あなたに会って伝えたいことはそれだけじゃないわ。』
その一言に私の涙は止まる。
『今度は是非、あなたが作ったあのロールケーキが食べたいの。他のパティシエではない、あなたのね。』
『いいんですかっ!?』
『ええ。どんな有名なパティシエでもない、無名の、何の実績もない真っ白なあなたのロールケーキが食べたいのよ。』
あのロールケーキが出来上がるまでに
幾度となく試作を繰り返した。
寝る間も惜しんで、少しずつメニュー
も調整して時間と格闘しながら
作り出した秘策のロールケーキだった。