‐杏子side‐

「―――ねぇ、君。」


そう呼ばれた時に起きた。


やばっ、寝ちゃってた。


先輩戻ってきたのかな…


しかし、目の前には男の人たちが立っていた。


……誰?


「可愛いね、君!ちょっとさ、一緒に遊ばない?」


「はっ?いいです。待ってる人いるんで。」


第一、知らない人と遊ばないし。


ていうか先輩まだかな。






「いいじゃん、ちょっとだけだからさ。それに待ってる人来なくない?帰っちゃったんじゃないの?」


もう、いちいちうるさいなぁ……


「もう放っておいて下さい!」


相手は痺れを切らしたのか、急にあたしの腕を引っ張った。


「いい加減にしろよ!」


いやいや、それこっちのセリフだから!


「放して下さい!」


その時だった。






「人の女に触らないでくれます?」


横からふわっと腕を掴まれた。


「……先輩。」


「なんだお前。」


「見ればわかるでしょ、こいつの彼氏。」


か、彼氏!?


「ふざけんなよ!」


相手は先輩に殴りかかろうとした………が。


あっさり避けられ、逆に殴られそうだった。






しかし、先輩はギリギリのところで止めた。


「ふざけんなはこっちのセリフだ。さっさと消えろ。」


先輩は、今まで聞いたことのないような低く冷酷な声で言った。


あたしは少し、身震いがした。


「チッ行くぞ。」


「お、おぅ。」


そう言って去っていった。






「はぁ……って成瀬!?」


「あっ大丈夫です!ちょっと安心しちゃって。」


ほっとしたのか、へたりこんでしまいその上涙がでていた。


すると、先輩にふわっと抱きしめられた。


「せ、先輩!!」


急なことで、心臓がバクバクいっている。






「ごめん、一緒に連れてけば良かった。怖かったよな?」


先輩の声は、何故か弱々しかった。


「……でも、先輩が来てくれました。」


すると、先輩がからだをはなし顔を見てきた。


うわっ////


思わず下を向いてしまった。






「なんで下向くの?」


「い、いや、その……」


どうしよう……


すると、今度は無理やり上に向けさせられた。


「……目、真っ赤。」


そう言って、笑いながら先輩は親指で優しく涙を拭った。


「あ、ありがとうございます。」


「おぅ。…少し休んだらここ出ようか。」


「え、でもまだ全然…」


やっぱり、先輩は遊園地嫌いなんだろうか。






「またさっきの奴らを見たら気分が悪いからな。それに、お前の大好きなアイスはここにないし。食べたいんだろ?」


「えっ、まぁ……」


あたしのこと考えてくれたの……?


―――ドキッ


……ん?


少しいいかもって思ったのは、気のせい?






「もう平気か?」


「あっはい。」


いや、わからない。


……でも、嫌いではないということがわかった。


この後、遊園地を出て、お昼を食べたりアイスを食べたり、他にも色々見てまわったりして挙げ句の果て、家まで送ってもらってしまった。