30分後、現れたのは雪ちゃんひとりだった。
雪ちゃんは力ない笑みだけを向け、あたしを近所の公園へと連れ立った。
街灯の下にぽつんと浮かんだような、古い木のベンチに腰を下ろす。
「てか、何?」
切り出したのは、そわそわしてたあたし。
「うん。実はね、俺結婚することになったみたい」
「は?」
「みっちゃんね、子供出来たんだって。俺の子。だからまぁ、そんな感じで」
雪ちゃんはまるで他人のことを話すみたいだった。
実感すらないって顔で。
「黒染めしてー、仕事見つけてー、新しい部屋借りてー、結婚式してー」
「………」
「で、俺、これから真面目なパパにならなきゃいけないみたい」
衝撃が大きすぎて、あたしは何も言えなかった。
「責任っていうのかな、こういうの。しょうがないっていうか?」
「………」
「まぁ、俺もさ、子供は好きなわけですよ。姉ちゃんの子とか可愛いし、いつかは欲しいなぁ、って漠然とは思ってたし?」
「………」
「みっちゃんは可愛いし、看護師さんだし。だからそれなりに色々といい感じになるかなぁ、と」
雪ちゃんは困ったように頬を掻いた。
言いながら、自分自身を納得させているかのよう。
「ってことでさ、俺もう夏美ちゃんとは会えないや」
風が、止んだ。
雪ちゃんという風が――。
「そっか」