雪ちゃんはあたしとこんなくだらない会話をするために、わざわざ“可愛い西女の子”とやらとの約束を断ったのだろうか。


だとしたら、あたしは早く帰って寝たかった。

そっちの方がずっと有意義に時間を使える。



「じゃああたし、修司くんと付き合うわ。それでいいんでしょ? はい、おしまい。会話終了。もう帰る」

「別にそういうこと言ってないっしょ」

「だったら何なわけ?」


眠いから余計に雪ちゃんの意味不明さにイライラする。

語尾が刺々しくなったあたしを、雪ちゃんはなだめるように笑い、



「んっとね、夏美ちゃんがそうしたいならそれでいいけど、でも俺の本心としては、ちょっと嫌だなぁ、と」

「は?」

「俺ね、夏美ちゃんのこと好きなの、多分」

「……はい?」

「でもそれは別に恋愛感情とかじゃないんだけど。でも、修ちゃんに取られるのは嫌」


駄々っ子か、こいつ。

つまりは気に入ってるおもちゃを手放したくないだけのことじゃない。


別に雪ちゃんに恋愛感情という意味での“好き”を求めてたわけではないけれど、苛立ちの次にはなぜだか虚しさに襲われて。



「だよね。あたしはあんたにとって、所詮は――」


言い切ろうとしたところで、唇を塞がれた。



「ちょっともう黙ってよ」


雪ちゃんは、こういう時だけ男の顔をする。

あたしは顔を逸らし、唇を噛み締めた。


雪ちゃんは大人しくなったあたしに、ひとつ息を吐き、



「今のは俺の言い方が悪かった。夏美ちゃんが怒るのはわかる。だから、ごめん」


先に謝るなんて卑怯だよ、雪ちゃん。

これじゃあ、怒ってるあたしのが悪者じゃん。