雪ちゃんを起こさないように、のそのそとベッドを抜け出し、あたしも修司くんの隣に座って、すっかりぬるくなったジュースを口に含む。

うーん、まずい。


携帯を開いて時刻を確認すると、午前3時半だった。



「うわー、こんな時間に起きちゃったよ。悪魔にさらわれちゃうじゃん、あたし」

「……悪魔?」

「おばあちゃんが言ってた。子供が起きちゃいけない時間なんだって」

「マジかよ? 起きたら悪魔にさらわれんの? “ばあちゃん”がそう言ったのか?」

「うちのおばあちゃん、そういう迷信ばっかでさぁ」


修司くんは、声を立てないようにしたためか、必死で笑いを堪えながら、肩を揺らしていた。



「やべー、お前のばあちゃん、ツボすぎる!」

「もう死んだけどね。ちっちゃい頃は怖いことばっか言って脅されてたからおばあちゃんのこと嫌いだったけど、今は何となくその理由もわかるっていうか」

「理由?」

「あたしを真っ直ぐな子に育てたかったんだろうなぁ、って」

「育ってねぇじゃん! “真っ直ぐな子”は、こんな時間にこんなとこにいねぇよ!」

「だね。そもそもの間違いは、おばあちゃんの言い付けに反発したことよ。反省してます」

「心を込めて言え。天国でばあちゃん泣いてんぞ」


修司くんは無邪気な顔で笑っている。

だからあたしは、この人のことを嫌いになりきれない。


雪ちゃんと同じくらい自由に振る舞ってるくせに、雪ちゃんと違って地に足がついてる人。



「でもあんたのおばあちゃんも泣いてんじゃないの? 可愛い孫が、こんなわけわかんない頭しちゃって」

「いや、俺のばあちゃんは喜んでるよ。きみ子はアメリカかぶれだからな」

「へぇ、ハイカラだね。羨ましい」

「でもきみ子、未だに俺に小遣いくれんだよ。どうなの、これ」

「いいじゃん。おばあちゃんなんて生きてるうちが華なんだから。素直に受け取るのもおばあちゃん孝行ってもんよ」


何であたし達は、こんな時間にこんな場所で、ひそひそとおばあちゃんのことを談義してんだか。


雪ちゃんが起きる気配は未だない。

さて、どうしたものか。