雪ちゃんも「ん?」と首を傾げ、「誰だろうね」なんてのん気なことを言ってあたしから体を離し、玄関に向かう。


カノジョとかだったらどうすんのさ。

修羅場になるようなことだけは何としても避けたいあたしは、ビクビクする。



「ほーい」


雪ちゃんはそんなあたしを気にすることもなく、扉を開ける。


カノジョじゃありませんように。

カノジョじゃありませんように。



「うおー、修ちゃんどした?」


修司くんだったらしい。


あたしはほっと安堵の息を吐く。

心臓に悪いって、マジで。



修司くんは「誰か来てんの?」なんて言いながらも、気にする様子もなくずけずけと部屋に上がり込んできて、ベッドで丸くなっていたあたしと目が合った瞬間、



「あ、ナツミカン」


と、こちらに向かって指を差す。


あんた影であたしのことそんな風に呼んでたのね。

許すまじ、ボブ・マーリー。



それでもあたしは「どうも」と口元を引き攣らせながらも言ってやったのに、



「雪、プレステ貸して」


あたしを無視したボブ・マーリーは雪ちゃんの方を向く。


おいおい、ふざけんな。

あんたほんと何様なわけ?



「自分のは?」

「壊れた。つーか、調子悪くて殴ったら、何でか作動しなくなった。でも俺今すげぇドラクエやりたくて」


修司くんは持参した自分のゲームのディスクを、雪ちゃんの返事さえも聞かず、プレステに挿入している。