「仕事、で…。」
「そう、か」
「…………。」
それから修也は喋らなくなった。
ただ私の指を弄ぶだけ。
私の指が熱を持つだけ。
しばらく修也は黙ったあと、顔をあげた。
「ヘアアイロン、ある?」
「へ?」
「ある?」
「え。うん、一応…」
「貸して」
突然修也がそんなこと聞いてくるからビックリした。
一度着たスーツを再度脱ぎ、腕捲りをする。
一瞬見えた、血管がかっこよかった。
そして押し入れに入れていたアイロンを取り出す。
最後に使ったのは…。
ずいぶん前、夏樹と遊びに行った時かなぁ…。
夏樹がパーマをかけたから、私も一度してみたくてしたんだっけ。
高かったこれも使ったのはその一回だけだもんなぁ…。
…なんて、それを見つめる。
「愛理、貸して」
私の手からヘアアイロンを奪った修也は手際よくコンセントを繋ぎ、電源を付けた。
たしか熱するまで時間がかかるんだっけ。
あー。私本当に女の子なのか?
いや、別に髪の毛は長いしスカートだって履くけど
…美容に疎い、ね、私。
「ほら、愛理、座って?」
準備が整ったみたいだ。
ソファーをポンポンと叩く修也は柔らかく笑っていた。
私は静かにそこに座る。
そっと触れられる髪の毛にドキドキする。
苦しいほど、胸が高鳴る。
「熱かったら言って。多分ないけど」
「は、はい…。」
後ろから話かけられるのは、慣れてないから緊張する。
美容師がかっこよく感じる理由、分かった気がする。