二岡の胸にグイッと押し付けると、あたしは処分に困っていたお弁当が自分の手から離れたことに安堵する。


別に、二岡は言いふらすような奴じゃないし、このお弁当のこと言っちゃってもいいか……。


「実はさ…、あたし隼人に頼まれてて、今までずっとお弁当作ってきてたんだよね。だけど、ちょっといろいろあってさ、これから作らなくてもよくなっちゃったんだけど………いつものクセで作っちゃったのよ。だからさ、よかったらもらってくれない? 2個もあたし食べれないしさ」


「………南条のための…弁当………」


「ん?」


何か小さな声で二岡が言っていたみたいだけど、あたしには全く聞こえなかった。


「いや、なんでもない。そっか。ありがたくいただくよ。だけど、いいのか? 俺、本当にこれもらっちゃって」


「いいよ。まあ、今日だけの限定商品だけどね」


あたしはそれだけ言うと、自分の席へと戻る。


「佐倉! 俺、告白されたけど断ったよ」


「え?」


どうしてそんなことをあたしに言ってくるのかわからないまま、聞き返そうとしたところで、いきなりクラスの男子たちが入ってくる。


「あれ~? 二岡、こんなに朝早くから来るなんてめずらしいじゃん。どうしたんだよ」


入ってきた男子たちは、あたしのことなど無視で二岡に近づき、肩に腕を回す。


二岡も何事もなかったように男子たちと話し出すし、あたしには何がなんだかわからないまま。




結局、あたしは意味がわからないまま、胸にもやもやしたものを残しながら時は過ぎた。