「まあ………。隼人、美優ちゃんにいつもお礼言ってないの? こんなにしてもらって」


おばさんは信じられないような顔で隼人を見つめる。


「なんだよ。別にいいじゃん。だって、美優だぜ」


「何が別にいいの! その理屈は全然通ってないわよ!」


いつも怒らないおばさんが目を吊り上げて怒ってる。


長年の付き合いの中でおばさんが怒った顔なんてはじめて見た。


「あ~………。うっせぇな。それより、メシ。早く用意してくれなきゃ、本当に遅刻なんだけど」


「隼人!」


おばさんの怒りの一声がリビングに響き渡った。


コーヒーを持ってたあたしは、その声に思わずこぼしそうになる。


おばさんも、こんなに大声だしたりするんだ………。


変な感心を抱いているあたし。


本当はそれどころじゃないんだけどね。


「だ~~~! もうわかったよ」


隼人は渋々あたしのほうを見る。


そして………。


「ありがと………」


蚊の鳴くような声で一言呟いた。


全く、そんなに声にだしてあたしには言いたくないのかな?


学校の隼人は男女誰にでも優しくて、今の家での態度なんて学校では微塵も見せたこと
がない。


こいつ、学校では本当に猫かぶってるもんね。


何回、こいつの正体ばらしてやろうかと思ったことか………。


あたしは、おばさんの手前、『うん』と頷いた。



不服そうに、あたしから顔をそらし、ふてくされて座る隼人。


そんな隼人から見えないところでおばさんはあたしに両手をあわせて、口パクで『ごめんね』と言う。


あたしは、それに『いいえ』と返した。