「何よ、この手は」
「何って決まってるだろ。弁当だよ。今日の」
「ない」
あたしの一言に隼人は急に席を立つ。
「お、お前。俺の命より大事な弁当を………。忘れたのか?」
隼人は大げさによろける。
本当に大げさな奴。
だいたい、『命より大事な』って、命がなかったら弁当も必要ないと思うけど………。
「もう、隼人! いい加減にしなさい。毎日、美優ちゃんが起こしに来てくれて、それだけでも本当なら感謝しなきゃいけないのよ。それを、お弁当まで頼んじゃって………。1回ないぐらいで死んだりしないわよ。それに、母さんのお弁当があるじゃないの! 1人で2つも食べてると、そのうち太るわよ」
おばさんの意見。
全くだ。
本当に、こいつにはおばさんの血が流れてるのか?
あたしはおばさんの意見を聞きながら、うんうんと頷く。
そして、そそくさと手提げ袋から大きな2段重ねのお弁当を出して、隼人の前にドンと置いた。
「あれ? 弁当………。美優、騙したな!」
「だって~。隼人ったら、1回もお礼言ってくれたことないんだもん。少しぐらい意地悪もしたくなるの!」
あたしはプイッと顔を背ける。
本当に、そりゃついでだから3つ作るところ1つ増えたところで問題なんてないんだけど、お礼の一言もなくて、当たり前のように思われているとおもしろくない。