「あれ~?」


思わず、隼人の顔を覗きこむ。


「な、なんだよ!」


覗き込まれた隼人は少し顔を赤くしながら、後ろへとのけぞる。


「隼人が自分から何も言われずに、お礼言うのってはじめてじゃない? あの日、おばさんに怒られた次の日からも全然礼なんて言ってこなかったのに、どうしたの?」


「う、うるせぇ! 俺だって、成長するんだよ!」


「今頃、礼を言う言わないので、偉そうに『成長する』なんて言わないでよ~。そんなの幼稚園児でもわかることよ」


「~~~~~~! いいんだよ、別に。俺は成長したんだ!」


半分怒りながら、隼人はドシドシと階段を下りていく。


あたしは、その後姿を見ながら、後を追いかけた。








 流れる沈黙。


壁にかけてある時計の秒針の音がやけに部屋に響いた。


目の前には腕を組みソファに深く座るお母さんの姿。


その前に直立した状態で立つあたしと隼人。


流れる沈黙に耐えられなかったあたしはお母さんに声をかける。


「お母さん? ねえ、何か言ってよ」


何か言われたほうがマシ。


何も言われないほうが怖いというか………。


お母さんは、眉を寄せた状態で『フゥ~…』とため息をつくと、閉じていた目を開ける。