「美優ちゃ~ん」
階下からあたしを呼ぶ声にあたしは上からひょっこり顔を出す。
「は~い」
「ごめんね。毎日毎日。隼人が着替えてくるまで、一緒にコーヒーでもどう?」
おばさんはすまなさそうな顔をしながら、あたしに声をかけてくる。
「はい。いただきます」
あたしは律儀に返事を返し、階段を下りていく。
階段を下りると慣れ親しんだ、リビングからコーヒーのいい香りが漂ってくる。
あたしは、いつも座る定位置に腰をおろす。
「本当にごめんね。毎日………。隼人ったら、私が何度起こしても全く起きないんだもの。昔から、美優ちゃんが起こすと起きるのに、どうしてかしら?」
おばさんは『う~ん』と首をひねる。
その仕草を見て、あたしは微笑む。
隼人のお母さんの美鈴さん。
この仕草を見ても、とても高校2年生になる息子がいるとは思えない。
とっても綺麗で若々しい美鈴(みすず)さんを、昔から呼んでいるとはいえ、『おばさん』と呼ぶのはときどきためらわれる。
このかわいらしさ、ウチのお母さんとは大違い。
「早苗(さなえ)。お仕事忙しいの?」
コーヒーをあたしの前に持ってきながら、おばさんは聞いてくる。
「はい。今、締め切り1週間前らしくて追い込みかかってるみたい」
「まあ………。大変ねぇ。小説家っていうのも………」