「えっ? そうなんだ。てっきり、佐倉さんが南条くんのこと香取さんから奪ったんだと思ってた」
「うん、あたしも」
「でも、今の話だと違うみたいだね」
みんなは隼人の言葉を鵜呑みして簡単に誤解は解けそうな雰囲気だった。
だけど―――
「ちょっと待ってよ、みんな! みんな騙されてるんだってば! だって、紀子は実際に付き合っているのに、横からこの子に南条くんのこと奪われてるんだよ!」
みんなの誤解が解けそうなことに焦ったのか急にギャルはあたしを指差して、異論を唱えてきた。
ギャルのその言葉にみんなも少し戸惑っている感じだ。
どちらの言葉が正しいのかわからないといった感じ。
たぶん、噂なんてそんなもの。
本当のことは当人同士にしかわからないものなんだ。
「もう止めてよ………、京香………。これ以上、私を惨めにさせないで…」
「……ちょっと…、紀子? あんた一体どうしちゃったのよ………。こんな奴らに好き勝手言わせてていいの?」
小さな震える声で呟く香取さんに、異論を唱えていたギャルは戸惑った表情を見せる。
それはもちろんあたしたちも。
香取さんはいつものような勝気な感じではなく、疲れきった表情をしていた。
なんだか、いつもとは間逆みたい。
いつもは自信に溢れていて明るくて、押しが強くて勝気。
そんな姿は今は微塵も感じ得ない。
そもそも、麻衣が彼女を連れてきたときから彼女の様子はいつもとは違っていた。
それは、あんなにきつく言われた隼人と会うのが嫌だったからかと思っていたけど、ちょっと違うみたい。