先をせかす麻衣。
「でね、少し様子がおかしいから、私もちょっとそのまま行けなくて、立って見てたんだ。そしたら、その人が人の下駄箱を開けて何かしてたの。何をしてたのかはっきりとは見えなかったんだけど、下駄箱を閉めた彼女がちょっと………なんていうのかな…うれしそうというよりも、悪巧みをして成功したみたいなちょっと悪そうな笑い方をしたから」
「その見た人って誰?」
阿部さんの口からはその人物の名前は出てこなかった。
たぶん、阿部さんも名前をだすことに少しためらいがあるんだ。
だって、ここで名前を言ってしまえば、自分が告げ口をしたみたいになるし、阿部さんがためらう気持ちはわかる。
阿部さんは少し考えながらも、あたしたちのほうを見た。
そして―――――
「南条くんの彼女の香取さん」
え………?
思いもよらない…いや、もしかしたらという気持ちはあったのかもしれない。
この絶妙なタイミング。
まるで示し合わせたかのような時期にもしかしたらというのはあった。
だけど、隼人はきちんと別れたと言っていたから、それをただ単に鵜呑みしていた。
もしかしたら、香取さんは隼人の前ではきちんと受け入れていながらも、心の中では納得をしていなかったのかもしれない。
「美優? 香取さんって………。ちょっと、美優!?」
呆然と立ち尽くすあたしに麻衣が体を揺すってくる。
「な、なに?」
「何じゃないわよ。しっかりしてよ」
心配する麻衣にあたしは力なく笑う。
そして、同じように心配そうに見てくる阿部さんにあたしはニコリと微笑んだ。