ツーツーツー……
一方的に切られた電話と会話。
私の嫌いな音が耳へと流れてくる。
「先生すみません、急に電話なんかして…」
「いや、それはいいんだけど…。」
少し眉間に皺をよせている先生から体温計を受け取り、脇へと挟む。
「なぁ伊緒、なんで風邪の事言わないの?」
「それ、は…言っても迷惑かけるだけですし……。」
それに、どうせ心配して帰ってくるわけでもないから。
「…そうなのか。」
ピピピピッ
静まり返った部屋に、さっき挟んだ体温計の音が鳴り響く。
先生に見えないよう自分だけで見てみると、なんと軽く38度を超えていた。
でも、でも……
「先生、もう熱下がったみたいです。」
これ以上迷惑をかけるのは嫌だから、本当の事は言わない。
先生に体温計を渡す前に勝手に電源を切った。
「は?あ、おいっ消したな!?ったく、何度だったんだ?」
「あ、え…っと…37度くらい…です。」
「…嘘だろ、正直に言え。」
「いえ、本当です。だからもう私帰りますね。」
先生のおかげで沢山泣けた。
元気もでた。
もうそれだけで十分です。
「お世話になりました。」
だから、一秒でも早く先生の元からいなくならなきゃ。
じゃないと、また迷惑をかけてしまいそうな気がする。
重い身体をベッドから起こし、壁にもたれながらもゆっくりと歩き始める。
「おい、伊緒。」