『――――ねぇ、お母さん、お父さん。明日ね…』
『伊緒、お母さん達忙しいから部屋にいてくれる?』
…忘れていた、こんな悲しみ。
ずっとずっと胸の奥底にしまっていた、開けてはいけない蓋を私は今開けてしまった。
小さい頃から、親は仕事が忙しくて家にいなかった。
でも、私が物心つく頃からそうだったから、それが当たり前だと思っていた。
だから悲しいとか寂しいとか、そういう事は感じた事がなかった。
……あの時までは。
小学生で初めての授業参観、私の親だけ教室に姿をあらわさなかった。
親子ペアで行う作業を、私だけ先生と行っていた。
その時、初めて悲しいという感情が私の胸に襲いかかってきた。
そして、それからは何事にも悲しいという感情が付きまとうようになった。
家に一人でいるときは、孤独感と寂しさで心が壊れてしまいそうだったのを今でも覚えている。