「もう…ほんと、ゴホっ…いいですから。家に帰ら…して。」
意識が朦朧とするなか、先生の声がかすかに聞こえる。
「でもお前、今一人じゃ何もできないだろ?」
それはそうだけど……。
でも、そんなことは昔からそうだったし。
風邪だからって誰かが看病してくれたわけじゃない。
「…だいじょ、ぶです。慣れてる…から。」
「え、慣れてる…?もしかして、親御さんって昔からあまり家にいないのか…?」
しまった…自分から余計な事言っちゃった。
「先生には、関係ない…。」
そう、先生には少しも関係ない。
決して知る必要はないんだよ。
私の家の事情も、この何ともいえない寂しさも。
全部全部、知らなくていいことなの。
「…だから…もう…ゴホゴホッ。」
話してる途中に息が苦しくなってきた。
呼吸が…苦しい。
「おい、伊緒?大丈夫か!?何か飲むか?」
先生。
先生…。
今、この何ともいえない寂しさをあなたに打ち明けたら、あなたは私に何をしてくれますか?
熱のせいなのかな?
今、先生が私を優しく抱きしめてくれる事を、胸のどこかで期待している自分がいる。
期待しても、それは無駄な事なのにね。