コトッ
「はいどーぞ。熱いから気を付けろよ。」
「ありがとうございます…。」
先生が淹れてくれたコーヒーからは、いつも教官室に香っている匂いがする。
これが匂いの元かと思いながらコーヒーを飲んでみると、口の中いっぱいに苦みが広がった。
「…にっが。」
「え?」
あ、つい本音が……。
実はコーヒーが飲めない私。
そんな私に出された砂糖もミルクも入っていないブラックコーヒーは、ハードルが高すぎるものだった。
先生、せめて何か入れるかくらい聞いてくれてもいいのでは…。
「なぁ、もしかしてお前…本当はコーヒー飲めない?」
うぐっ……この人は本当にすごい。
エスパーのように私の心を読んでしまうんだから。
いやでも、今は読んでよしくなかったけどね。
ただ恥ずかしいだけだからね。
「いやぁ…いい匂いだったから飲みたいなって。」
「バカ…。」
そ、そこまで言わなくても。
ちょっとした興味心じゃんか。
「ほら、コップ。」
「へ?」
「へ?じゃねーよ。いいから、それよこせ。」
伸ばしている先生の手に、さっきもらったコップを手渡す。
せっかく先生が淹れてくれたコーヒー、飲めるなら全部飲みたかったんだけどな…。
「ほら、お前はこれ飲んどけ。」
そう言って、さっきのコップの代わりに渡されたのは……。
「わぁ…ありがとうございますっ。」
よく昼放課に私が飲んでいる紙パックのココアだった。