「甲田、先生…?」
ほんのりと汗の匂いがする。
心臓の音も速く、息使いも整わずに苦しそうに聞こえる。
もしかして、探してくれたの?
こんなに疲れるまで?
何も言ってないし、会ってすらいない私の為にここまで?
それに、甲田先生関係で泣いているかどうかも知らないはずの先生が…。
「………………。」
でも、今は…今だけは……。
「先生、離して下さい。」
どうしても無理なの。
「伊緒、俺の話し聞いて?」
心の整理が追い付いていないの。
「…片瀬です。」
「え?」
「呼び方間違えていますよ、甲田先生。一生徒だけを名前で呼んでしまったら、その子が特別みたいになってしまいますよ。」
「い………」
「無責任な発言はしないで下さい。困ります。」
「……………。」
そう言った後、先生の手の力が少しずつ弱まっていった。
その隙にここから逃げようと立ち上がり、足を踏み出そうとした。
…けど、先生の手が私のそれを阻止した。