・・永倉州は、擬似カップルになった事を後悔してるんだ・・
あたしだって、はじめはそうだったけど。
でも、今は・・・たとえ擬似カップルでも、永倉州の彼女でいられるなら・・・
それでもいいって思ってるんだよ??
いつか・・・永倉州もあたしの事を好きになってくれたら・・なんて、
期待しちゃったりしてたし。
でも、やっぱり、永倉州の中には元カノが・・・いるんだね。
元カノ、受験を口実に永倉州と別れたのに・・・
本当は、他に男出来たから・・なのに・・・
永倉州はソレを知らないから、今でも元カノを待ってるんだ・・・
あたし、「ホントは元カノ、他に男いるんだよ!受験で別れようって嘘なんだよ!」って永倉州に言っちゃいそう・・・
「・・ねぇ・・永倉州・・・あのさ・・・」
「・・ん??」
永倉州は、優しい笑顔であたしを見た。
この笑顔を・・あたしだけに向けたい・・・
そう思ったら、勝手に口から出てしまった。
「永倉州の元カノ・・・彼氏いるんだよ??」
永倉州の顔がだんだんと強張っていく・・・
「は?何言ってんの?アイツ、受験勉強で忙しくなるからって、俺に別れ話してきたんだぜ??」
「・・・でも・・・いるんだもん。彼氏・・・受験って理由は嘘だったんだよ・・・」
「は?てか、なんであおいがそんなこと知ってるんだ?」
「・・昨日見たの。男の人とくっついて歩いてる所・・・永倉州、別れてよかったんだよ・・」
あたしがそう言うと、永倉州はガバっと立ち上がり、あたしを見下ろして言った。
「なんで、お前にそんなことまで言われなきゃいけない?勘違いすんなよ?俺とお前は擬似カップルなだけ。本当の彼氏彼女じゃないんだから・・・
悪いけど、今日でもうこの関係終わりな?んじゃぁ、俺帰るから・・・」
「ちょ・・ちょっと待って!!」
あたしの声に振り向く事もなく・・・
永倉州は帰っていった。
・・・擬似カップルの関係が・・終わった・・・
あたしが余計な事を言ったから・・・
《勘違いすんなよ?俺とお前は擬似カップルなだけ。本当の彼氏彼女じゃないんだから・・・》
永倉州のその言葉が何度も何度もリピートする。
好きって気付いた日に・・・失恋しちゃった・・・
もう少し・・・永倉州の傍にいたかった・・・
この一ヶ月の出来事がどれだけ楽しかったか・・・今頃気付くなんて。
・・・永倉州・・・
あたしは、さっきのキスを思い出して、暫くそのベンチで泣き続けた。
どこをどうやって帰ったのか記憶が無い・・・
なんであんな事を言ってしまったんだろうって後悔ばかりで。
・・・擬似カップルが終わった・・・
あたしの新しい恋も終わった・・・
明日からどんな顔して学校行けばいいんだろ?
永倉州に振り向いて欲しくて、元カノを忘れて欲しくて・・・
余計な事をしちゃったなぁ。
謝りたい。
そう思って、あたしは携帯を取り出してメール画面を開いた。
《さっきはごめんなさい。余計な事言ったよね・・》
本当は・・・《擬似カップルの関係やめたくないよ・・・》って伝えたいんだけど
《今まで楽しかったよ!ありがとう♪》
・・・なんて、心にもない事を付け加えてそのまま送信した。
結局、永倉州からの返信はなくって。
《俺も言いすぎた。ごめんな・・》とかのメールを期待してた自分が恥ずかしくて。
たまらなくなって、TELしてみたりして・・・
でも、繋がる事はなく、コールの後のプッーープッーープッーー・・・と着信拒否を意味する機械音が余計にあたしを突き落とした。
次の日。
康太に振られた時よりも酷い顔で学校に向かった。
はぁ・・・
ため息しかでない。
信号待ちする度に空を見上げて、今日は天気が悪いんだって気付く。
あたしの気持ちをそのまま表すような、グレーのどんよりした空。
そう言えば「傘持って行きなさいよ!」ってお母さんに言われてたなぁ・・・
コンビニで傘買おっと・・と思ってコンビニに入って、バッグを開けてふとまた気付く。
・・・財布忘れた・・・
ツイてない時ってホント何もかもダメなんだよね。
そのままあたしは今にも降り出しそうな空の中、学校に向かった。
教室に入るのが・・・こわい。
擬似カップルだったとはいえ、みんなはマジカップルだと思ってるから
何度席替えをしても隣にしてくれてたし・・・
なんて声を掛けようか・・・
それとも・・・無視されちゃう??
あたしはふぅ・・・と息を吐いて、教室の後ろのドアをそっと開けた。
「お!あおい、おっはよ~♪今日遅いじゃん!!どしたの?」
由貴がいつものように声を掛けて近付いてくる。
あたしの真横に来ると、
「・・・で?昨日の初デートはどうだったの?!?!あんな事こんな事しちゃったりなんかして??」
ボソボソっと、ニヤニヤしながらあたしに聞いてきた。
由貴の話を聞きながら、自分の席の隣に視線をやった。
・・・あ・・・だめだ・・・。
いつものように朝っぱらから机に突っ伏してる後姿を見た途端、涙が出てきた。
「ちょっ・・!!ちょっとあおい?!?!なに?!?!どした?!?!」
由貴はそんなあたしに驚いて、隣でアタフタしだす。
あたしは、両手で顔を覆って止まらない涙を隠すだけだった。
その後、あたしは由貴に連れられて女子更衣室にいた。
「うぅっ・・あたし・・・あたし・・・永倉州が・・・うぅ・・・」
「・・・わかったわかった・・・とりあえず泣き止もう・・・話はゆっくり聞くから・・」
由貴はあたしの背中をさすりながらそう言った。
しばらくして、あたしの涙は枯れてしまい、意外と冷静に由貴に事の全てを話す事が出来た。
「・・・そっか。永倉州の元カノがねぇ・・・おまけにあおいが永倉州をねぇ・・・
そしてふられるとはねぇ・・・」
「・・・うん。なんか・・・展開早すぎて頭がついていかないって言うか・・・」
「うーーーん。まぁ・・・でも・・・現実は現実だからねぇ・・・今は辛いだろうけど、時間が経つのを待つしかないかもね。永倉州は・・・まだ元カノのことを忘れられてないんだし・・・」
「・・・そうだよね・・・。はぁ・・なんか、めちゃ切ないっっ!!!」
「大丈夫!!!あおいならいい男がわんさか寄ってくるって!!そして、その何人かをあたしに分けて♪」
由貴のその言葉にあたしは思わず吹き出した。
「だね♪イッチョ、女磨きでも頑張るかっっ!!」
心の中はまだ永倉州でいっぱいだったけど、あたしはわざと明るく言った。
教室に戻り、自分の席に着く。
いつもなら隣の永倉州とバカな話とかして過ごすんだけど。
さすがに今日はお互いに顔を合わせることも無く・・・
そんな二人をみて、クラスの皆は、あぁ・・別れたんだ・・・と察知した。
そういう話って、広まるの早いんだよね。
その日の昼休みにはもう学年中に広まり、その日の帰りには学校中に広まっていた。
元々人気のあった永倉州の周りには、永倉州狙いの女子が集まり・・
「先輩♪デートしてくださーーい♪」
「メアドおしえてーーー♪」
「彼女にしてーー♪」
・・と、甘い声が響いた。
・・・真横にあたし座ってるんですけど・・・。
・・・そんな女子たちにたまにチラっと見られるのがムカッとするんですけど・・・。
・・・ここにいると切なくなる・・・帰ろ・・・
あたしは、さっさと帰りの支度をして教室を出た。
廊下を歩きながら、ふと窓から空を見る。
・・・雨降ってくる前に帰らなきゃ。
少し急ぎ気味に廊下を歩き、靴を履き替えて、外に出たところで・・・
・・・ポツ・・・ポツッ・・・と雨粒が落ちてきた。
やっちゃったなぁ・・・
とりあえず、玄関の柱にもたれて、雨宿りするか、このまま駅まで走るか考えていた時・・
「州がさぁ・・・」
あたしがもたれている柱の後ろから、今一番敏感にになってる人の名前が聞こえてきた。