それは・・・突然だった。
「・・ごめん。受験に集中したいんだ。
別れて欲しい・・・」
「・・え・・?」
今、あたしは同じ学校の1個上のイケメン彼氏、康太と一緒に下校中・・・
授業後、いつものようにあたしのクラスまで迎えに来てくれて、
いつものように・・・一緒に駅まで向かう・・・
いつものように・・・
・・・って、そういえば手を繋いでくれてない・・・
駅の改札であたしは康太を見つめたまま思考停止・・・
「・・ごめんな。受験生だし、ちょっと真剣に勉強に集中したいんだ・・・だから・・・」
「・・ヤ・・・やだ!!別れたくないよ!!あたし、康太の勉強邪魔しないし・・・それに受験終わるまで会う回数減らすから!!絶対迷惑掛けないから!!別れるなんて言わないで・・・」
あたしはここが駅の改札だって事をすっかり忘れて大声で叫んでしまっていた。
家路を急ぐ学生や、社会人の人の視線が痛いほど突き刺さる。
・・でも、そんなことより、あたしにとっては別れるって事の方が辛くて・・・
康太は、まわりを気にしながら言った。
「・・とにかく・・・もう決めた事だから・・・悪いけど・・・」
そう言って、そのまま立ち去ろうとする。
「・・ま、待ってよ!!康太!!」
あたしは、康太の腕をギュッと掴んだ。
「・・あたしの事、好きじゃないの??受験終わるまで待ってちゃダメなの?!
あたしは、康太が大好きなの!!」
涙だか、鼻水だかわからないけど、顔面ぐちゃぐちゃなのがわかる・・・
そんなあたしの手を振りほどきながら康太はフゥーーーっと、ため息をつく・・
「・・悪い。正直言って、俺、受験に集中しようって決めてから、あおいに気持ち無くなった・・・じゃぁ・・行くから・・・」
・・・そんなぁぁ・・・・
あたしはその場にヘタっと座り込んで、号泣した。
帰宅してからも、有り得ないくらい泣いた。
康太と初めて出会った日のことや、初めてのキス・・・初めてのエッチ・・・
あたしの入学式の日に、部活で学校に来ていた康太に話しかけられて、
その一週間後には「好きだ!!俺と付き合って欲しい」って告白されて、付き合い始めて・・・その日にファーストキス
みどりの日の前の日に初めてお泊りして、初エッチ・・・
あぁ・・・走馬灯のように・・・ってこういうことだったんだ。
この一年・・・めちゃくちゃ幸せだったのに・・・
受験のバカぁ・・・
・・・って、ちょっと待てよ?
昨日エッチしたよね・・・
何か納得いかないけど・・・
でも、別れたくなかったよぉ・・・康太・・・
次の日、あたしは腫れた目と浮腫んだ顔に若干ヒキながらも学校に向かった。
学校で康太に会ったら・・・どうすればいいんだろう。
普通に話しかけていいのかなぁ。
康太を見たら、また好きぃって気持ちが溢れちゃいそうだよ・・・
「おっはよ!!あおい♪・・ってなにその顔・・・綺麗な顔が台無し・・・」
「・・あ。おはよう・・由貴。そんなに酷い顔してる?あたし・・・」
「・・う・・ん。酷いかも・・・どしたの??」
あたしは、昨日の出来事を親友由貴に全て話した。
「・・・受験に集中したいって・・・?なんか、そういうの感じ悪いねぇ」
「うん・・・でも、邪魔しちゃいけないし・・・」
「・・・康太先輩とあおいが別れたら喜ぶ女めちゃくちゃいるだろうね。今まではあおいの存在があったし、あおいに勝てるような容姿の子なんてなかなかいないから、誰も康太先輩に近付かなかったけど・・・FREEになったわけだしねぇ。」
「・・う・・・康太が誰かに告白されるなんて想像しただけで嫌だ・・・」
「まぁ、でも♪受験に集中するんだから、断るだろうし♪気にしない気にしない!!」
「・・・うん。」
「今日、学校帰りになんか食べに行こうか♪失恋記念に奢ってあげるから♪」
「うん・・・乗り気になれないけど・・・」
そんな会話をしながら校舎に入った時・・・目の前の光景に唖然とした。
ローファーから校内用のスリッパに履き替えて、たまたま空き教室の中に目がいった。
・・え・・・嘘・・・
思わず立ち止まってしまう。
空き教室の中には康太が居て・・・
女の子とキスをしていた・・・
あたしの異変に気付いた由貴もその光景に驚いていた。
「ちょ・・ちょっと・・何アレ・・・」
何度も何度も繰り返される濃厚なキス・・・
最近はあたしがキスしたいって言っても、「口内炎が痛いから・・」って拒否ってたよね?
「あ・・あの女、一年の佐藤里香だよ!!守ってあげたくなるぅ!!超可愛いって男どもが言ってた!!」
その佐藤里香って子は、女のあたしから見てもふわふわな雰囲気で可愛くて、まるで子犬のような子・・・
守ってあげたくなる・・・わかる気がする。
あたしとは違うタイプ・・・
あたしの見た目は、どちらかというと猫っぽいって言われる・・・中身は違うんだけど・・
「・・康太も可愛い子が好きだったんだ・・・」
あたしはハハハっと自嘲気味に笑った。
「あたしは、あおい見たいな綺麗な顔に憧れるけどなぁ・・あんな、子犬みたいじゃなくて!!ってか、受験に集中じゃなかったんだ?!最低だね!康太先輩・・・」
「はぁ・・・もうなんだかギブアップ・・・とりあえず行こうか・・・」
あたしと由貴はそのまま自分たちの教室に向かった。