静かすぎる客席の反応に戸惑って。

 思わず周りを見渡した僕と、トシキの目が合い、ヤツが喉の奥でくくく、と笑った。

「……確かに見たぜ?
 雪の王子の踊り。
 みんな、お前が『男』としてどれだけ強く……
 ……危険なヤツなのか肌で感じて引いているんだ」

「……トシキ……!」

『雪の王子』の踊りだって?

 僕が、危険、だって……!

 トシキの言い草に驚いて、続く声も出ない僕に、トシキが、笑う。

「だから『男』前面に出すような踊りをやめて『椿姫』ぐらいが丁度いいと言ったのに。
 お前が昔得意だった『ファントム・ジ・オペラ』よりもこの『ガロティン』は、強かった。
 もう誰も。
 お前の事を、弱く、儚い。
 女みたいな男だと思ってみるヤツはいないぜ?
 さあ、どうする?
 螢ーー!」

 正体のバレた僕には、もう帰るところは無いのだと。

 だから、オレの所に来い、と。

 まだ、舞台の上に居るのにもかかわらず。

 両手を広げて迫って来る、トシキの影から逃れようと、僕はよろよろと後づさった。

 その時だった。

 反対側の、舞台のソデから、小さな王子が、僕に向かって、一直線に走って来たのは。

 彼は、客席に向かって身振りで、拍手を要求すると。

 抱えた花束ごと、ぼすん、と僕の胸に飛び込んだ。

 そして、叫ぶ。

「螢!
 すっげーカッコ良かった!!!」

「直斗……!」

 その、直斗の行動が。

 叫んだ声が。

 ホール全体を支配していた、変な緊張感から解き放つ。



 うあぁぁっ!
 


 ホール全体を揺るがすような、叫びは。

 全員が立って続ける、割れんばかりの拍手の音は。

 全部。

 客席が、僕に向かって贈ってくれた祝福の……音?

 直斗を腕に抱えたまま、呆然と立ち尽くす僕に。

 会場一杯に詰めかけた客が贈ってくれた拍手の音は。



 当分、鳴り止む気配すら、なかったんだ。