舞台の上で、直斗は、確かに『王子様』だった。

 ハニーでは、絶対無理な舞台の上での戦いに。

 僕から話を聞いて絶対、トシキの所になんてやらないと。

 拳を握りしめてくれた僕の小さな王子様(リトル・プリンス)だった。



「やっぱりさ。
 螢は、俺の家族(パパ)なんだよ。
 息子としては、何か、出来ることしたいじゃん?」

 本当は従兄弟だろうが、シェリーに新しい恋人ができようが、直斗自身は、そう決めたらしい。

 直斗が言ってくれたその言葉に、僕が手に入れたモノの大きさを思い知る。

 僕が、ハニーを愛して手に入れたモノは。

 ハニーの愛だけでなく、彼を取り巻く全ての『繋がり』も一緒に手に入れたんだ。

 愛しいヒト。

 愛しいモノ。

 居心地の良い場所は、ここに……この街にある。

 ホールを揺るがすような笑い声に包まれて、椿姫を踊りきり。

 直斗をそっと、抱きしめた時。

「……螢」

 と不安そうに、ささやく直斗に『ありがとう、心配ない』とささやき返し。

 響く拍手の中、彼を舞台の下手に送り出して、ギターのトシキを睨んだ。

 けれど。

 トシキは莫迦にしたように『やれやれ』と肩をすくめると。

 つづいて、僕が本当は、一番最初に踊るはずだった『ガロティン』の最初冒頭を引き始めた。

 その雑な音は。

 今踊った『コミック・ダンス』の椿姫を完全に莫迦にしている耳障りな、ヤル気のない音で、しかも。

 打ち合わせとは、完全に違う始まり方に、あわてて、カンテ(歌)の結花とパルマ(手拍子)の里佳が席に着き。

 ばらばらと始まったフラメンコ・ダンスに、とうとう僕も腹を立てた。

 最初は、女装のまま。

 ゆっくり。

 穏やかで切ない、愛の踊りを踊る予定だったガロティンの女衣装を、とっとと脱ぎ捨てると。

 男の衣装で、トシキの目の前でだんっ、と足を踏みならした。